草と共に生きる

 中部・関西地方に155店舗を展開する ドラックストアのドラックユタカ近江店(滋賀県)でお客様から川柳を募集したときのことです。川柳ではありませんが、かなりご高齢のお客様が一編の詩を持って来られたそうです。何かに掴まりながらでないてと歩けないようなご様子。でも、話しぶりはしっかりとしておられ「頭を使う俳句や川柳が大好き」とのこと。

それは、「千の風になった」の替え歌でした。草刈りをしつつも、草という自然の恵みへの愛を感じる詩でした。ここに紹介させていただきます。

「私と千の草」

北居貞義

私の畑の前で 嘆かないで下さい
私はここにはいません
疲れて家に帰りました
あの大きな畑には
千の草に 千の草に笑われています
刈ったそばから どんどん迫ってきます
ああ ああ どうしようにも仕方がありません
小さい草から背高の草まで
そして土の中に根張って私をいじめます
昨日刈ったタンポポの花は
今日その花種になってまきちらしています
十の草、千の草になって種をバラまいています
賞味期限が近づく私
千の草と共に生きています。
その千の草に励まされ
家にこもり怠ける私に
元気と英知を戴いています
大自然の営みと共に
年老いたこもり勝ちの人を
この草達が元気をくれます
琵琶湖の西からの風と雨が
そして太陽のめぐみを
私の畑を草だらけにしてくれます
時々疲れます
その千の草をヒマのある人達
刈り取りを共にして下さい
その人達にはきっと元気と
長生きを戴くことでしょう
元気と長生きを戴くことでしょう
笑って生きたいから
共に笑って生きたいから
今日も生き延びましょう

 

 ずっと農業を営んで来られた人生。春から夏は、草との戦いです。きっと草が憎くなることもあるのではないかでしょうか。でも、この詩からは、草に対する「愛」すら感じさせられます。

 作者の北居さんは、詩にこんなメッセージを添えておられます。

 「私の畑の地下には、縦横無尽に根が延びています。ケンカもせずに互いに労わり合い、地上に伸びています。 白い根、黒い根、緑の根が張っています。コンコンと小さな鍬で草根を掘り起こします。草はお互いに上下関係を保って平和に暮らしています。遠く中国から黄砂にのって長沢に地へ。中国語はわかりませんが、仲よく暮らしましょうと言っています・・・。草が生えない国があると思えば、日本は草と共に生きています。みんな草も生き物と仲良く生きる長沢を」

 自然を慈しむ心の深さに心打たれました。