与えれば、必ず還ってくる

 私のライフワークとも言うべきテーマがあります。それは、

 「ギブアンドギブで上手くゆく」

です。与えれば、人生が上手くゆく。幸せもお金も手に入る。もちろん、生半可なことではいけません。与えて、与えて、それでも見返りを期待せずに与えることが必要になります。

 でも、人間だから「欲」があります。見返りを期待しない行為なんて、そうそう簡単にできるわけがありません。そこで、「ギブアンドギブすると、期待しなくてもこんな形で自分に還ってくるんですよ」「安心してギブアンドギブして下さい」という事例を紹介しています。

 例えば、もっとも簡単なのが「笑顔」です。こちらが笑顔になれば、相手も笑顔になります。ニコニコ笑っている人に、しかめっ面はしません。つまり、笑顔を与えた瞬間に、笑顔が還ってくるというわけです。小学校で講演させていただく時には、隣の人とペアになってもらい、「笑顔のしあっこ」の実験をします。

 さて、福井県小浜市でダスキン加盟店の社長をしている吉田隆社長にこんな話を伺いました。

 ダスキンは、誰もが知る「おそうじ」の会社です。大きな工場や事務所の清掃の他、一般の家庭のそうじもあります。そこでは、こんなことが日常茶飯事に起きるそうです。

 社員さんが個人のお宅にそうじに行く。
 仕事を終えて帰ろうとすると、
 「ありがとう。コレ食べて」
と、旅行に行ったお土産をくれるというのです。農家や、家庭菜園をやっているお宅では、いつも野菜を用意していてくれる。お菓子やジュースは当たり前。お昼時には、お寿司を取って待っていてくれる家もある。中には、代金とは別に、寸志を包んでくれるお客様もあるそうです。

 もちろん、ダスキンの決まりとしては、お客様から代金以上のものをいただいてはいけないことになっているそうです。でも、せっかく差し出されたものを断るのも申し訳ない。「気持ち」を尊重して有難く受け取ることにしているそうです。

 中には、
 「留守にしているから、勝手に上がってそうじをしておいてね。玄関に野菜を置いて置くから持って帰ってね」
と言われるお客様もいるそうです。田舎町(失礼!)ということもあるでしょう。しかし、よほどの信頼関係がないとできることではありません。

 吉田社長は言います。
 「実は、デキル社員と、もう一歩という社員の違いがここに現れます。そうじをしてもらい不満足だと思ったら、お菓子や野菜を上げようと考えないはずです」

 これは逆の立場になれば明らかですね。こちらが期待している以上に家をキレイにしてくれたら、嬉しいものです。すると、何かお返ししたくなるというもの。金銭を超えた心が芽生えます。反対に、期待以下だと、クレームを言いたくなる。クレームならまだいい。文句を言うのも不愉快だから、黙って契約を打ち切ってしまうでしょう。

 お客様相手の企業にとっては、それが一番恐ろしいはずです。クレームさえ届かないのだから、どう対応していいのかわかりません。

 でも、ダスキン小浜さんでは、これがお礼の「お土産」という形で目に見えるというのです。

 もちろん、「お客様からプレゼントをもらいたい」という気持ちで働いているわけではないでしょう。デキル社員は、もっともっとお客様に喜んでいただけるにはどうしたらいいのか。そればかりを考える。そのために「もっともっとキレイにしよう」とそうじをする。もちろん代金を頂戴しているわけですが、その代金以上にキレイにしようとする。そこで働く社員にとっては、「もっともっとキレイに」とそうじをしても、給料は変わりません。その結果が、たまたまお土産という形に現れたのです。

 笑顔と同じですね。
 与えたら、すぐにその場で還ってきたのです。

 ここで再び、ダスキンの企業理念です。
 「損と得の道あれば、迷わず損の道をゆくこと」

 誰もが「え!?」と思うでしょう。「得」の道をゆくのが企業経営ではないかと。その最先端をゆくのが、ネットショッピングです。ポンッとパソコンのキーを叩けば、一番安い商品が画面に現れます。

 その真逆。目先の得(利益)ばかり追いかけてはいけない。真にお客様のためになることを考えて心を尽くせば、それがやがて信頼となる。ひいては物も売れて利益(得)となるという考え方なのです。

 吉田社長は言います。
 「事実、中には残念ながらお土産をもらえない社員もいます。損得勘定が心のどこかにあり、お客様への尽くし方が足りないのかもしれません。顧客満足度を測るバロメーターにもなります。もらうことを期待してはいけないけれど、お土産はお客様に喜んでいただけた証なのだと思っています」