「空の上の思いやり」
志賀内泰弘著
「翼がくれた心が熱くなるいい話」(PHP研究所)
EPISODE1より
「陰膳」にまつわる「いい話」を耳にしたことがあります。
その一つは、飛行機の機内でのこと。
骨壺の入った白い包みを膝の上に置いていたご婦人に、客室乗務員が気をきかせて、隣の席を一つご用意したというお話です。
もう一つは、東京ディズニーランドの中にあるレストランでのお話です。夫婦が二人でそのレストランに入ったときのこと。その夫婦はメニューを見ずに「お子様ランチを2つ下さい」とオーダーしました。店員は、
「お子様ランチは9歳未満のお子様までと 決まっておりますので、ご注文はいただけないのですが・・・」
と丁重に断りました。 すると、その夫婦はとても悲しそうな顔をしたので、 店員は事情を聞いてみました。すると、奥さんの方が、
「今日は、亡くなった私の娘の誕生日なんです。『3人でこのレストランでお子様ランチを食べようね』と楽しみにしていたんです」
とおっしゃいました。
店員は話を聞き終えた後、その夫婦を二人掛けのテーブルから、 四人掛けの広いテーブルに案内しました。さらに、「お子様はこちらに」と、夫婦の間に子供用のイスを用意しました。
どちらも、心に響くお話です。
でも、実際にはこんなことは、なかなかないのではないか。
珍しい出来事だから、感動するのに違いない。そう思っていました。
ところが、身近な友人から、JALに寄せられたというこんなエピソードを耳にしました。
いわゆるサンキューレターです。
その女性は、外国に住んでいましたが、入院中の母を見舞うために日本へ一時帰国致しましていました。
しかし、残念なことに母親は急逝し、遺灰とともに米国の自宅へ戻ることとなりました。
ニューヨークへ戻る際に利用した便は満席であったにも関わらず、その女性の隣の席は空いており、
「御遺灰を足元に置いて頂くのは大変申し訳ありませんので、隣のお席もお取りいたしました。どうぞお使いになって下さい」
と客室乗務員が声を掛けたそうです。
女性は、ありがたく母の遺灰を隣の座席に置きました。
しばらくして、先ほどの客室乗務員が席にやってきました。そして、
「失礼かとは存じますが、よろしければお母様と御一緒にどうぞ」
と、トレーに白いナプキンを敷き日本酒とおつまみを載せて持ってきたというのです。
その温かな気遣いに、思わず涙ぐんでしまったそうです。
この三つのお話に共通するのは、「思いやり」です。
言うまでもなく、仕事とは、「傍」を「楽」にすること。
つまり、目の前のお客様に喜んでいただくということです。
もし、悲しみに暮れている人がいれば、その悲しみを少しでも減らして差し上げることができないか。
そんなことは、出過ぎたことかもしれない。
でも、何かして差し上げたい。
マニュアルではなく、そうした「思いやり」が、とっさに出た瞬間なのでしょう。