こんなタクシー見たことない!(その2) 

~下電タクシー・津島貴美雄さんにプロ精神を見た

 自前の保冷バッグを準備する津島さん
 「冷たい『おしぼり』サービス、素晴らしいですね」
と何度も言うと、ドライバーの津島貴美雄さんは、こうおっしゃいました。
「会社から支給された保冷バッグでもいいのですが、猛暑の日には一日もたないのです。中に入れた保冷剤が溶けてしまうのです。そこで、私は自腹で釣り用の保冷バックを購入して、そこに保管しています。どんなに暑い日でも、たいてい一日持ちます、もっとも猛暑日には大人気になるので、途中で営業所に戻って『おしぼり』を補給しますが」

 前項で述べましたが、「社員さんの自発的な発案」で始まったサービスですが、どうやらこの津島さん。その優れた社員さんたちの中でもひときわ特別な存在のような気がしました。そこで、「ひょっとして人気者の観光タクシードライバーさんですか?」と尋ねると、大当たりでした。

 テレビの取材のお手伝いをする時の「気配り」とは?
東京キー局のテレビ番組で、行き当たりばったりで、タレントやディレクターが地方を取材するものがあります。タクシーを借り切って、途中で出逢った「面白い人」を取材する。なにしろ、スケジュールを組んでいないので、どこへ行くのかわからない。

 たまたまインタビューに応じてくれた人の自宅を訪問することになって、急に思わぬ方向へと車を走らせることも。

 津島さんは、そんな取材のお手伝いを何度も引き受けているとのこと。いや、「岡山のテレビ取材なら、津島さんしかいない」という評判になっているそうです。それはなぜか・・・」

 「そういう番組でたいへんなのは、ディレクターさんなんです。取材は一日しかできない。タレントさんは、午後〇時の新幹線に乗って帰らなくてはいけない。そんな時間的制限がある中、急に「ここが見どころなので、ぜひ行ってください」と言われた時に、『行くか行かないか』を即断しなくてはいけないのです。だから、私は、取材をスタートする前にディレクターさんにメモを作って渡しておきます。ここから後楽園まで〇分、美作まで〇分、坂出まで〇分かかるというリストです」

 なるほど。なかなかにくい気配りではありませんか。今までに、50回以上もテレビの取材のお手伝いをしているそうです。中には「津島さんでお願い」とご指名される局もあるといいます。

 写真やサインは求めない
 「そんなにテレビ局の仕事があると、有名なタレントさんのサインもいっぱい持っておられるのではありませんか?」
そう尋ねると、「いえいえ」とかぶりを振られました。

 「タレントや俳優さんたちは、仕事でいらっしゃっているのです。そんな方たちに、サインをお願いしてはご迷惑になります。プライベートで来られる俳優さんに、観光案内をさせていただくこともあります。この時も同じです。いつも緊張感の中でお仕事をされているはず。オフの時くらいゆっくりしたいと思っておられるに違いありません。だから、サインも写真もお願いしないように心がけているのです」

 参りました。
これぞプロ。誰でも有名人にあったら。それも一日中一緒に時間を過ごしたら、記念にサインをもらいたくなるに違いありません。

 最後に、津島さんの方からポツリと話されました。

 「とはいうものの・・・実は、一度だけサインをいただいたことがあるのです」

 「え?・・・それはどなたの?」

 「母親が昔から、仲代達也さんの大ファンなんです。だから、お乗せする機会があったとき、迷いましたが『母がファンでして』とご無理申し上げました。それが一度きり。母に喜んでもらえました」

 お客様への「おもてなしの達人」であり、自分にとても厳しいけれど、親孝行。

 また倉敷を訪ねる際には、ぜひガイドをお願いしようと思っています。
 
(写真)
保冷バッグの冷たいおしぼり↓