タクシーに乗って考えたこと(その1)
「目先の利益に囚われないことの難しさ」
タクシーが来ない!
よくタクシーを利用します。お迎えに来てもらうことも多く、自宅近くに基地のあるDタクシー会社さんにお願いしています。
ある日のこと、いつものように電話をしました。
「急ぎ一台、お迎えをお願いします」
と。それは、毎月一度の通院のためでした。いつもなら、「かしこまりました」と言い、5分と待たずに駆けつけてくれるのに、その日は思わぬ返事。
「あいにく、すべて出払っており伺えません」
唖然として言葉を失いました。「そういうこともあるのかな」と思い、仕方なく他のMタクシー会社に電話。しかし、たまたま雨が降っていたこともあり、なかなかコールセンターに電話が繋がりません。ようやくお迎えの車が到着するのに時間がかかり、予約診療の時間に遅れてしまいました。
野球の試合で全車借り上げに
そんなことが、二度続きました。さすがに首を傾げました。私は数日後、Dタクシーを利用した際、ついつい、運転手さんに愚痴ってしまったのです。口にしてから、「しまった」と反省。その運転手さんには何も罪はないのです。ところが、運転手さんは、本当に申し訳なさそうに詫びられたのです。
「たいへん申し訳ございませんでした。志賀内さんが、いつもわが社を利用して下さっていることは、本社の人間も運転手仲間でもよく存じ上げているはずです。そんなお得意様にご迷惑をおかけするなんて、もっての他です」
「いや、繁盛で何よりです。全車、出払うなんてスゴイですね」
と答えると、
「ひょっとして、それは○月○日と○月○日ではありませんか?」
と聞かれびっくり。スバリその通りだったからです。
「実は、その日、ナゴヤドームで中日VS△△の野球の試合があったのです。選手や関係者の送迎にうちの会社のタクシーを全車借り上げる契約をしているのです」
目先のことしか見えていないんです
「それは、良いお客様ですね」
「いいえ、そんなことをしてはいけないのです。ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
運転手さんは、急に険しい口調になり赤信号で停車した際、私の方を振り向いて改めて頭を下げられました。
「私たちの仕事は、皆さんの足となることです。特にご病気の方、お年寄りで足が不自由な方にはタクシーは欠かせません。全車出払ってしまったら、日頃、通院に利用して下さっているお客様にご迷惑になる。そんな簡単なことが本社の幹部にはわかっていないのです。以前から、そういう契約は止めて欲しいと、運転手仲間で上申しているのですが・・・結局、目先の大口の売上を優先してしまう。目先の利益のことしか見えていないのです。それが原因で、どれだけ大勢の常連のお客様に迷惑をかけているのか。こんなふうに、お客様から苦情を聴くのは私たちドライバーで、胸が痛むだかりです」
中央タクシーの真似ができるか?
ふと、思い出したのは、長野県の中央タクシーさんの有名なエピソードです。長野オリンピックが開催された時、地元のタクシー業界は特需に沸きました。世界中のマスコミが取材に押し寄せ、期間中「全車借り上げ」されたのです。
ところが、中央タクシーさんだけは、報道関係者の借り上げを断ったのです。もし、それに応じたら、通院など生活の足として利用して下さっているお客様に迷惑をかけてしまう。なんと「断ってほしい」と提案したのは、ドライバーだったといいます。
オリンピックが始まると、他社との売上に差が生じました。なんと三倍も。それでも、「目先の利益を優先せず」、常連のお客様を大切にしたのです。
そして・・・その答えは、オリンピックが終わり、数年後に出ました。「お客様本位の会社だ」ということで、お年寄りや障がい者などの圧倒的支持を受けたのです。
わかっちゃいるけど、なかなか真似できないことです。
「求める(テイク)」心を抑えることから始まる
「プチ紳士・プチ淑女を探せ!」運動の理念は、「ギブアンドギブ」です。もちろん、「ギブアンドテイク」の間違いではありません。「ギブアンドテイク」だと、見返り(テイク)を期待してギブしてしまいます。すると、もし見返りがなかった場合、相手に対して愚痴が生まれます。それ以上に、恨み辛みになり険悪な人間関係に陥ることもあります。
かといって、「人間だもの」・・・「ギブアンドギブ」なんてなかなかできやしません。それではどうしたらいいのか? まずは、求めない練習をすることです。人には「欲」があります。その「欲」を「捨てる」なんて難しい。いや、絶対に無理です。それを承知で、少しでもいいから「欲(求める心)」を抑える、「目先の利益」求めない努力をするのです。
大丈夫。求めなくても、必ず返ってきます。中央タクシーさんのように。