木下晴弘「感動が人を動かす」2
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「感動が人を動かす」2
「あんたはいい笑顔をしとるのぉ」
「涙の数だけ大きくなれる!」著者 木下 晴弘
あるハンバーガー店でお昼にしようとレジに並んでいたときのことでした。
4つくらい空いていたレジにはすべてに行列ができており、そのお店の人気ぶりがうかがえました。いよいよ次が私の番となったとき、隣の列で注文をしていた中年の男性がレジの女の子に大声で文句を言い出したのです。
「どうなってんだこの店!客をなめてんのか!!」
どうやらポテトのサイズを間違えて袋に入れ、それに気づいて交換しようとしたとき、ちょうどストックがなくなり次が揚がるまで待たせてしまったようです。確かにファーストフード店は早さが売りのひとつです。なんせ「ファーストフード」ですから。
サイズを間違われたために後から並んだ人が先に商品を購入していくのが、その男性にとっては許せなかったのでしょう。さらに追い討ちをかけるようにその女の子に罵声が飛びました。
「いったいどれだけ長く並んでると思ってんだ!ふざけるな!!」
女の子は、
「申し訳ございません。ほんとうにすみません」
と平謝り。まわりのスタッフも自分のことで精一杯なのか、その男性の迫力に押されてか、誰一人として彼女に声を掛ける人はいませんでした。
結局数分後、その男性は揚げたてのポテトが入った袋を女の子の手からひったくるようにして去っていきました。何度も頭を下げていたその女の子でしたが、次のお客さんが待っています。彼女はうっすらと涙をにじませながら、それでも気を取り直し、一生懸命笑顔をつくって、
「いらっしゃいませ!ありがとうございます!ご注文をどうぞ!」
と次のお客さんを迎えました。
それはちょっと上品な感じのおじいちゃんでした。
ところがそのおじいちゃんは彼女にこんなことを言い出したのです。
「あんたはいい笑顔をしとるのぉ。わしにも笑顔の素敵な孫娘がおってな。ちょうどあんたと同じくらいの年頃じゃ。それはもうかわいくてかわいくて。逢いたくてたまらんのじゃが、遠くに住んどってなかなか逢えん。でもあんたがとびきりの笑顔を見せてくれたんで、今日は孫娘に逢えたような気分じゃ。ありがとうね。つらいことがあっても、あんたが見せてくれるその笑顔は周りのたくさんの人を幸せにする。その幸せな気分の中で飲むコーヒーは格別なんじゃ。どれ、ホットコーヒーをひとつくれんか」
その女の子はぽろぽろと泣き出しました。
「はい・・・ホット・・・ホットコーヒー・・・お一つで・・・」
泣いて泣いて言葉になりません。するとその様子を見ていたおばさんもこんなことを言ったのです。
「虫の居所が悪いときは誰にでもある。あの人はきっと急いでいたんだろうね。でも、あなたは誠心誠意謝った。そして私達を笑顔で迎えてくれたじゃないか。がんばるんだよ!」
止めようとしても溢れてくる涙をぬぐいながら、女の子は、
「ありがとう・・・ござい・・・ます」
と精一杯のなみだ笑顔で答えていました。この日この店で購入したハンバーガーがいつもよりおいしく感じたのは私だけではなかったかもしれません。