逃げてもいいし、困難承知で突き進んでもいい

「逃げてもいいし、困難承知で突き進んでもいい」

「仕事で大切なことはすべて、尼崎の小さな本屋で学んだ」(ポプラ社)を「読みました!」と言って訪ねて来てくれるお客様が後を絶たない。その中の一人の青年の話。彼は、今年2月頃から月に2度のペースで来店しては、小1時間ほどおしゃべりをして本を買って行く。30歳ぐらいだろうか。最初に訪れた時の、問わず語りの話が忘れられない。
「仕事に悩んでて会社を辞めようかと思っているんです。でも、5つ年上の付き合ってる彼女がいるんですけど、結婚したいと思っているので辞めたら生活が・・・」
そんな話を聞いてしまいずっと心配をしていたが、こちらから「その後どう?」とも訊きにくい。ところが、この7月のことだ。「仕事続けます!」と、すっきりした顔で言うので驚いた。私が「いいの?」と瞳を覗き込んで尋ねると、「はい、ふっきれました!」との返事。「よかったね、また悩んだらいいねん」と言いつつも、我ながら「なんて無責任なおばさんや」と心の中で苦笑いした。
そして8月。彼がニコニコしてやってきた。「実は一昨日、彼女にプロポーズしました!」「えっ、そうなん!おめでとう。よかったねー」。その顔を見たら、彼女の返事がどうだったのか聞くまでもなかった。「でも僕、緊張して前の夜からお腹壊しまして」と笑いながら恥ずかしそうに言う。「それは大変やったねえ、それぐらい大緊張してたんやね」「はい・・・彼女、ずっと泣いていました」。
一瞬、わたしは言葉に詰まった。「よかったねえ、それぐらい嬉しかったんや、忘れたらあかんよ、今の気持ち」。プロポーズするのに緊張しておなかをこわす彼と、プロポーズされてずっと泣いている彼女。なんて素敵なカップルなんだろうと思った。こんなピュアな、こんな優しい若者がいるのだ思うと胸が熱くなった。
人生には思いもかけないことが必ず起こる。でもその時その時、ちゃんと受け止めて考えようと思って生きて来た。結果、逃げてもいいし、困難承知で突き進んでもいい。大切なことは「一生懸命考えること」だと思う。そして、右か左か、選んだ道が自分にとって最良なのだと信じることだ。
「今度、彼女連れてきます!ありがとうございました!」。こちらこそありがとう!幸せは自分でつかむもの、誰にも未来は来る、と信じたい出来事だった。