子どもは親の知らぬ間に大人に・・・
みやざき中央新聞・魂の編集長の「ちょっといい話」第十六回 「子どもは親の知らぬ間に大人に・・・」
水谷もりひと
今回は、今、台湾のホテルで研修中の我が家の息子・コウスケの話です。
彼は台湾の大学に留学したのですが、4年生のとき、倫理法人会という経営者団体が主催する「中国内モンゴル自治区にある砂漠地帯に木を植えるプロジェクトに参加しました。
一行は羽田空港から出発するのですが、彼は台湾在住なので、台湾から直接北京空港に飛び、そこで合流することになっていました。
その空港で彼は「死にそうだった」という話を帰国後にしてくれました。
空港に到着すると、まず入国審査ゲートを通過します。そこで入国する目的、ホテルの名前、緊急連絡先などを告げて怪しい者ではないことを証明しなければなりません。
彼は、それらのデータをスマホのグーグル・ファイルに入れていました。ところが、中国ではグーグルが使えないことが判明しました。空港のWiHiに繋いでも開けないのです。
空港職員に事情を説明して、その人のスマホでテザリング機能を使わせてもらってもダメでした。ゲートを通過できないと合流地点に行けません。右往左往しているうちに、その約束の時間を三〇分以上も過ぎていました。
その時、うる覚えで、ホテルの名前の一文字だけ覚えていました。空港職員の方が、その漢字一文字が付くホテルに片っ端から電話をしてくれて一〇件目くらいで倫理法人会の団体が予約しているホテルを探し出してくれました。
それで何とかゲートの外に出ることができて、約束の合流場所に行ったのですが、誰もいないのです。三〇分以上過ぎているので「置いて行かれた」と思ったそうです。ツアー会社の担当者の電話番号もわからないので、アナウンスをしてもらおうと空港ビルの人にお願いしたら断られました。またしても絶対絶命のピンチ。
まだ空港内にいるかもしれないと思い、広い北京空港内をそれらしき日本人団体を探して彷徨うこと一時間半。
それでも見つからず途方に暮れていたそのとき、目の前を異常に明るい日本人の団体が通ったそうです。絶望的な状況の中ですから、その一行に光が差しているように見えたといいます。
「砂漠の、えっと植林の方ですか?」と声を掛けたら、そうでした。
事情を聞くと羽田からの飛行機が一時間半も遅れて到着したとのこと。
見知らぬ外国の地で、しかも中国というちょっと怖い国で起きたハプニングに「もう死にそうだった」と言ってました。
絶体絶命のピンチって人生にはあるものですよね。
コウスケが今研修を受けている台湾のホテルでこんなことがあったそうです。
彼はコンシェルジュという、お客様からの相談は何でも受ける部署にいました。
ある日、ホテルに電話が鳴りました。先ほどチェックアウトしたお客様からでした。「空港にいるんだが、タクシーの中にスマホを忘れてしまった」と、お連れの方のスマホからの電話でした。タクシー会社の名前は分からないそうです。「どうしたらいいでしょうか」という相談の電話だったのです。
コウスケは、タクシーの中に忘れたというスマホの電話番号を聞き、GPS機能を使ってスマホの現在地を探し出すことができました。そして自分のバイクで、そのスマホがあるであろうタクシーを追いかけました。
幸いなことに三十分くらいでタクシーに追いつき、そのまま空港に向かい、何とか間に合い、お客様にスマホを渡すことができたそうです。
北京空港でのハプニングと、タクシー・スマホ忘れ物事件という二つの話を聞いて、高校生までの息子の、あの頼りなかった、何をやっても中途半端で、よくトラブルを起こしては親に迷惑ばかり掛けてきた思い出がいくつも蘇ってきて、「逞しくなったなぁ」と涙がどっと溢れてきました。子どもというのは、親が知らないうちに大人になってしまうんですね。