第35回「いじめ」で学校が変わる

熱血先生 今日も走る!!!
「子は宝です」 第35回

「いじめ」で学校が変わる
中野 敏治

「どうしたらいじめがなくなるかな?」と生徒たちといろいろ考えました。生徒達は大人以上にすばらしい発想で考えを伝えてくれます。大人は今までの経験や他から聞いた内容などから考えることが多くなっています。大人が考えると「いじめは絶対ダメ!」「いじめに気がついたら、すぐに注意しよう」「いじめだと思ったら先生に言ってきて」「いじめ撲滅のポスターを作ろうか」など、生徒達に伝えてしまいます。大人が考えた内容の多くは、対処的なことばかりです。
生徒達は大人とまったく違う視点でいじめをなくす方法を教えてくれました。その発想に驚きました。「先生、いじめが起きないようにするには、みんなで遊べばいいんじゃない」「みんな仲良くなれば、きっといじめなんか起きないよ」「だって、みんな仲良く友達になれれば、いじめたりしないし、いじめらしいことが起きても、みんなが声をかけられるよ。」と言うのです。仲がよい友達同士なら、言い合いになっても、いじめにはならないと言うのです。
生徒達は、考えたことをすぐ行動に移しました。学級委員がクラス全員に「いじめをなくすのが目的だけど、このメンバーでいられるのも一年間だけだから、全員が仲良くなれることをしたい。だから一週間に一回、お昼休みにグランドで、みんなで遊ぼう」と提案したのです。
昼休みは、「生徒会活動があるから」とか「他のクラスの友達と遊ぶから」など、いろいろな意見が出ましたが、最終的には毎週金曜日の昼休みにみんながグランドに出て遊ぶことになりました。生徒の考えは、月曜日はきっと週のはじめでみんな「ぼーっ」としているから、金曜日にしたというのです。曜日を決めるのも、それなりの理由を考えていたのです。
木曜日の帰りの会で司会の生徒が、「明日の昼休み、班対抗の大縄跳びをします」とクラス全員に伝えました。
思春期特有の「めんどくさいな」という顔をする生徒もいました。でも、班対抗と聞いて、気合が入る生徒もいました。
金曜日の給食の時間、班ごとで給食を食べながら作戦を練っているのです。誰が縄を回すのか、どの順番で並ぼうか、と。給食の時間も楽しくなりました。
昼休みです。クラス全員で跳ぶのでなく、5〜6人の班員で跳ぶので回数は100回を超す班も多くありました。それだけにみんなヘトヘトで、汗をかいていました。教室にもどる時、「あ、なんかスッキリした」と友達と話している男子生徒もいました。
その日の帰りの会、翌週の金曜日の昼休みに何をするかと相談していました。決まった内容は同じ大縄飛び。でも、班対抗では跳ぶ回数が多く、ヘトヘトすぎるからと、二つの班を一つのチームにすることを決めていました。その方法はくじ引きで決めるというのです。回を重ねることに、ドッチボールなどいろいろなことを考え、週に一回ですがクラスで遊ぶことが定着してきました。そして今まで話すことの少なかったクラスメイトとも自然に話をするようになっていたのです。生徒達はいろいろと考えました。クラス内の遊びではなく他のクラスに競技を申し入れたのです。「クラス内の班対抗でなく、他のクラスへ勝負を挑もうよ」というのです。
いじめをなくすため、毎週金曜日の昼休みにみんなで遊ぶということが、他のクラスにも広がっていったのです。意見の食い違いはありましたが、いじめが起きることはありませんでした。
クラスにいた生徒会本部の生徒が、生徒会の顧問の先生に「いじめをなくすために全校生徒で何かできないか」と相談をしたのです。いろいろ考えて生徒会本部からの提案がありました。「全校の善行」という活動が決まったのです。全校集会(朝会)がある日に、朝会を終えた後、生徒会本部の生徒がハート型に切った色のついた紙を全校生徒に配り、全校生徒が友達の良いところ、優しくしてもらったことなどをその紙に書いたのです。それを一枚一枚模造紙にハート型になるように貼って校内に掲示したのです。「全校の善行」が集まった掲示物になりました。

生徒の発想から、一つのクラスが動き出したいじめをなくす活動。それが学年に広がり、全校生徒の取り組みに広がっていったのです。
「いじめはいけない」「いじめはダメ!」などということは、もう生徒は知っているのです。それでも起きてしまうのです。「ダメダメ」で指導している大人より、生徒達の「楽しもう」「仲良くなろう」という発想が、仲間を変え、学校を変えていったのです。
全国の学校でいじめの調査が行われます。同時に、優しくされた調査も行われると楽しい学校がもっともっと増えそうな気がします。生徒は教師の教師です。まさに子は宝です。