第31回「校長面接」

熱血先生 今日も走る!!!
「子は宝です」 第31回

「校長面接」
中 野  敏 治

毎年、夏になると3年生全員と面接を行なっています。この面接は数日間かかります。それでも、一人ひとりの生徒といろいろな話をすることで、生徒の悩みや頑張りを聞くことが出来ます。
生徒は緊張して面接会場に入ってきます。その緊張感は生徒の顔の表情からも分かります。受験のときの面接とは違うので、質問はできるだけ少なく、生徒自らが話す時間を多くしようと面接を行なってきました。
必ず生徒に聞いていたことは「中学校生活で一番楽しかったこと」「中学校生活で一番辛かったこと」です。
楽しかったことは、ニコニコしながら話します。「優勝出来なかったけど体育祭でクラスが団結したこと」「修学旅行で班別に見学したこと」「部活動を頑張れたこと」など沢山の話を具体的に話します。とても楽しかったようで、話が途切れないほどの勢いで話す生徒もいます。辛かったことを聞くと、「辛いことはあまりないかな」「友達と喧嘩したことだけど、もう仲直りした」など、中学校生活を振り返ると辛かったことは、あまり思い出せないようでした。

漢字一文字を
昨年の校長面接から、生徒が考えた漢字を白い紙のコースターに筆で書いてプレゼントしています。
生徒は漢字一文字にさまざまな思いを詰めこんでいます。漢字一文字を生徒から聞くとき、「どうしてこの漢字なの」と理由も聞いています。
ある生徒は「愛」という字を言いました。「どうして?」と聞くと「校長先生、この字を見て。この漢字の真ん中は『心』という字があるでしょ。どんなことも『心』が大切だと思うの。だから『愛』という字が好き」というのです。
またある生徒は、「桜」という字を言いました。どうしてかと聞くと、「私の名前に入っている字だし、『桜』が大好きだし、親の想いがなんか伝わってくるみたいで好きなんです」と。
生徒一人ひとりには大切な字があるのです。

俺、「霧」という字が好き
男子生徒との面接の時、「好きな漢字は?」と聞くと彼は「霧」というのです。想像もしていなかった漢字です。どうして「霧」なのかと聞きました。彼はゆっくりと話しだしました。「俺が小さい頃、親父と二人で山に登って、その時、急に霧がかかってきて、驚いたんだけど、そのあとサーッと霧が流れて、そこに太陽の光があたって、その時の霧がすっごく綺麗で忘れられないんだ。だから校長先生に『霧』という字を書いてほしくて。」というのです。
「お父さんのこと大好きなんだね」と声をかけると、彼は、「そうでもない」というのです。学級担任からは、彼は、酒好きでいつも酔っぱらっている父親が大嫌いだと聞いていました。今は父親とふたりで住んでいますが、家ではそんな父親と喧嘩ばかりしていると聞いていたのです。
反抗期でもあり、受験を控えたときでもあります。父親とふたり暮らしの彼は、父親に反抗ばかりしているのだと思いました。
面接の終わりに「親を大切にしろよ」と声をかけると、ニコッとしながら「うん」と答える彼の姿に、やっぱり父親が好きなんだなと実感しました。
彼にとって忘れられない光景は「霧」という一文字に凝縮されていたのです。

「迷」って漢字を書いて欲しい
不登校の生徒です。校長面接の日に登校できるか、心配していましたが、面接の予定時間より早く、面接会場の前の椅子に座って待っていました。
彼女の番です。「どうぞ」と声を掛けると、ドアを4回ノックして、「失礼します」と面接会場へ入ってきました。家にいる時間が長いようで色白な感じでした。
「好きな漢字を教えてくれたら、その漢字を校長先生が書いてみるから」と伝えると、戸惑いながらも「迷」という字を書いてほしいというのです。どうしてこの字なのかと聞くと、下を向いてしまいました。そして小さな声で「私、いつも迷っているの。友達の中にいる時もどうしてよいのか迷うし、家に居ても家族の中でどうしていたらよいのか迷ってばかり。だから『迷』という字にしたの。校長先生に書いてもらったら机の上に飾りたい」というのです。
書くことに、私が迷いました。この字を書いて机の上に置いていたら、いつまでも「迷い」が無くならないのではないかと。
戸惑っている私に気がついたのか、彼女は「校長先生、その字はダメですか?」というのです。
私は迷いに迷って「迷いは人生の宝」と書きました。「迷うことは悪いことではないんだよ」と言葉をかけました。彼女はニコニコして「ありがとうございます」と言いながら受けとりました。

子どもたちは、みんな自分の人生を必死で生きているのです。心の言葉と会話しながら自分探しをしているのです。