「お客様にラブレターをお預かりしています」後編

「一枚のポストカード」(後編)
~この人に逢いたい!~
志賀内泰弘

田村さんは、沖縄に着くと早速仕事先でこの話をしました。その後も、いつもメッセージの書かれたポストカードを持ち歩き、「こんな素晴らしい人がいるんだよ」と、あちこちで喋りまくりました。日頃から「一期一会」の心を大切にしている田村さん。まさしく、接客のお手本だと確信したのです。
しばらくして、なぜ自分がそんなにも感動したのかという点を考えてみました。
① 名刺をくれた人が勤めている会社のことを知るために、その会社の本を買って読むなんてなかなかできないこと。スゴイ!
② 「人生はたらいの水の如し」とは、「たらいの中の水を手でこちらへ掻くと、あっちへ逃げる。向こうへやると、こっちへ来る」という仏法の有名な説話。分厚い本(400ページ超)の中で、ここに心が留まったとは、若いのにもかかわらず相当に奥深い人生感を持っていると思われること。
③ 面倒だろうに、すぐにメッセージを書いてくれたこと。それも、ポストカードにびっしりと。普通なら書いたとしても3.4行程度のメッセージではないか。字積りもバッチリなので、おそらく下書きをしていると思われる。
④ さらに・・・なぜ、自分が一週間後に沖縄便に乗ることを知ることができたのか?きっと、予約画面で確認したのだとは推測できるが、「そこまで」してくれたことが心憎い。
⑤ ANAでは、地上スタッフからの手紙を客室乗務員にリレーするシステムが出来上がっているのだろうか?もし、そうだとすると、素晴らしい会社だ。

考えれば考えるほど、Fさんの素晴らしさに感動し、もう一度会いたくなりました。そこで、Fさんご本人宛、さらにANAの秘書部宛に「もう一度お目にかかり、さまざまなことを学びたい」という旨を添えたお礼状を認めました。何度かのやりとりの後、ついにアポイントメントが取れ、Fさんを訪ねました。
(実はこの時、志賀内も厚かましく同行させていただきました)
羽田空港のANAの応接室で待っていると、Fさんは飛び切りの笑顔で私たちの前に現れました。

聞けば、入社5年目とのこと。Fさんに①から⑤の「感動」を直接伝えました。そして、
「いつも、こんなメッセージを書かれているのですか」
と尋ねると、「いつもではありませんが、ときどき・・・」との返事が返ってきました。
ついこの前も、年配のご夫婦のご主人が、出発直前になって搭乗待合室で気分が悪くなられてしまったそうです。しばらく介護をしていたけれど、すぐには回復しない様子。大事を取って飛行機を翌日に変更し、東京にもう一泊することになったそうです。
そして、翌日。Fさんはそのご夫婦のことが心配になり、なんとかお見送りに行きたいと思いました。でも、カウンターの業務が立て込んでいてどうしても離れることができない。そこで、素早く「どうぞおだいじに。良い空の旅をお楽しみください」とメッセージを認め、CAさんに手紙を託したそうです。
「田村様のときも、本当は沖縄便に乗られる時、お見送りに行きたかったのです。勤務の都合で仕事場を離れることができないことがわかっていたので、やむをえずメッセージを書いたのです」。
ますます、田村さんは感激してしまいました。
(できることなら、モスにヘッドハントしたい!)

実は、驚いたことがもう一つ。なんと、実は、その数日後には、モスバーガーのホームページを見て、創業第一号店である成増店を訪ねて来たというのです。
すると、「やっぱり、あなたでしたか!」と田村さん。これは偶然ですが、店長会議の席で「店長さんはいらっしゃいますか?接客のことについて勉強させていただきたくて」と成増店を訪ねていらした航空会社の女性(社名も名前はわからない方)がいたことが、話題になったというのです。
「あ・・・それ、たぶん私のことです。バレてましたか」
とFさんが顔を真っ赤に。田村さんは、またまたビックリ。
横からちょっと口をはさみ、Fさんにこんな質問をしました。「どんな気持ちで仕事をされているのですか?」と。すると、こんな答えがすぐさま返ってきました。
「『世界中をハッピーにしたい!』という熱い思いで働いています」
なんと大きなパッションでしょう。働くことで、世界中の人を幸せにしたいなんて、そんな人にお目にかかかるのは初めてです。
「飛行機が好きだから、ANAで働けて幸せです」
とも。(こりゃ、ヘッドハントは無理そうですね、田村さん)
一枚のメッセージカードから、たくさんのことを学ばせていただきました。
田村さん、ありがとう!Fさん、ありがとう!