妊婦さんの救出劇 (2006/7/6)

 最近は出産に立ち会う夫が増えていると聞く。でも、分娩(ぶんべん)室の前でクマのようにうろうろ歩き回る人が大半ではないだろうか。生命の誕生という大切な瞬間に、男は頼りないものである。

 名古屋市中区にお住まいの横山順子さん(49)から、女性ならではという話が届いた。五年前の冬、JR金山駅での出来事だ。横山さんが改札口へ向かっていたときのこと、コンコースに一人の女性がうずくまっているのが見えた。その脇には、心配そうに声をかけている女性の姿があった。

 「大丈夫かな」と立ち止まった瞬間、介抱していた女性が大声で「女性の方、手伝っていただけませんか」と行き交う人に呼び掛けた。その声に、まるで吸い寄せられるようにして、横山さんをはじめとして四、五人の女性が駆けつけた。

 妊婦さんだった。床がぬれており、破水していると思われた。声を掛けた女性が集まった人たちに指示をした。「彼女と私を丸く囲むようにして立ってください。着ているコートを広げて周りの視線から守って」

 通りがかった男性が駅員さんに連絡し、間もなく担架がやってきた。駅員室まで運ぶ間、ずっとコートで壁をつくって付いて行った。声を掛けた女性も、特に医療関係者というわけでもないらしい。でも、妊婦さんというのはデリケートなもの。女性ならではの気遣いと的確な対応だったという(恥ずかしながら、男性では思いつかない)。その間、わずか十五分ほど。駅員室まで送ると、何事もなかったかのように女性たちは改札口へと消えていったという。