見ていてくれる (2006/9/22)
迷い犬を引き取り、介護をしておられる方の話を先日、紹介した。すると今度は、猫にまつわる話が届いた。豊田市の吉井まゆみさん(46)からのお便りだ。
九月七日の朝、車で通勤中のこと。橋の上が渋滞になっていた。右車線の車が左車線にどんどん入ってくる。吉井さんが「何だろう」と思ってのぞくと、白い子猫が右車線の真ん中に座っている。よく見ると、足が動かない様子。車にひかれたに違いなかった。
信号待ちで車の流れが止まった。すると、子猫は上半身だけで体を引きずりながら左車線へと移動してきた。「路肩まで行けるといいな」と思っていたが、吉井さんのすぐ前の車の下に入り込んだまま、出て来ない。信号が青になり、今度は右車線だけ車が流れ出した。
「どうしよう」と思っていたら突然、前の車のドアが開いて二十代の男性が外に出てきた。はいつくばって車の下をのぞき込み、手を伸ばす。なかなか届かない様子。苦労の末にようやく助け出した。手の中にはハンカチにくるまれた子猫がいた。
男性は子猫を舗道に運ぶと思いきや、なんと自分の車の助手席に座らせて走り出したのだった。「きっと動物病院へ連れて行くのだろう。私も治療費を支払わせてもらいたい」と思い、吉井さんが後を追い掛けたが途中で見失ってしまった。その間、男性は何度も助手席を気にして視線を送っていたという。
吉井さんは、男性の見返りを期待しない優しい行動に心を打たれたという。思わず、車のナンバーを控えた。偶然でもない限り会えないかもしれないが、お礼が言いたくて、ずっと探しているという。良いことは誰かが見ていてくれる、という証しのような話。