悔しかった漢字テスト (2006/10/29)
名古屋市熱田区にお住まいの林克弘さん(46)が電車に乗っていると、中学生たちの会話が聞こえてきた。その日にあった漢字テストの話のようだった。なんと携帯電話の辞書機能で調べて答え合わせをしているらしい。時代を感じるとともに、ふと自分の小学校一、二年生のころの出来事を思い出したという。
毎朝、担任の先生が漢字のテストをしていた。それはドリル形式になっていて、毎日二十問を解く。そのうち十八問以上を正解しないと、翌日に次のページへは進めない。何度も同じ問題を解くことになる。
ある日のこと、林さんは十七問で不合格になってしまった。間違いの一つというのが「はね」だった。天気の「気」の字の四画目をはねずに止めてしまったのだ。涙声で先生に詰め寄った。でも、当然のことながら「決まりです」の一言で丸をもらえなかった。すごく悔しくて、その晩は眠れなかった。
それから四十年ほどたったある日のこと。郷里の長野県阿智村の同級生から携帯電話に連絡が入った。あの丸をくれなかった先生が亡くなられたという。慌てて葬儀に駆けつけ、手を合わせてご冥福をお祈りした。
そして、ふと位牌(いはい)の戒名に目がとまった。和尚さんの書かれた墨の文字である。そこには一字一句、きちんと「はね」るべきところが「はね」られていた。これを見て林さんは「パソコンや電子辞書に頼り、最近ではついつい分厚い辞書を引くことも少なくなってしまったが、今後もきちんと丁寧に文字を書きたい」と心に誓ったという。