気遣いがうれしくて (2007/9/30)
春日井市の久保田節子さん(82)が、友達に会うため名古屋駅へ出掛けた帰り道のこと。最寄りのJR勝川駅で降りると、ホームには一緒に降りた乗客で一時的に人があふれた。久保田さんはいつもシルバーカーを押して外出する。疲れた時には、腰掛けて一休みすることもできる。このシルバーカーも一緒に運ばなくてはならないので、人がいなくなるのを待ってから降りることにした。
ホームのある三階から二階まではエスカレーターで降りた。ところが、駅舎が工事中のため二階から一階は下りエスカレーターがなくなっていた。仕方なく階段をゆっくりと下り始めた。
階段の途中で視線を感じた。ふと斜め後ろを振り向くと一人の男子高校生がこちらを見ていた。ひょっとして、と思い声をかけた。「わたしの手助けをするためにそこで待っていてくださったの?」。彼は、小さくうなずいた。「はい」と言ったかのように聞こえた。「まあうれしいこと。ありがとうね。でもゆっくりならなんとか下りれますから大丈夫よ。先に行ってちょうだい」と言うと、再び「うん」とうなずいた。
ずいぶん時間がかかったが無事に下りることができた。その間、彼は最後まで「大丈夫かな」と心配そうに見守っていてくれた。シルバーカーを代わりに持ってくれたり、肩を貸したりという行動はなかった。でも、顔の表情からずいぶん恥ずかしがり屋さんで、口下手であるように思えた。きっと「助けた方がいいのかなぁ」と心の中で葛藤(かっとう)していたのだろう。それが精いっぱいの行動だったに違いない。
一方通行の会話ではあったが、その気遣いが十分に伝わってきて、胸の中が温かくなった。不思議に足も軽くなったという。