扶桑町が誇る“文化財” (2007/10/21)
扶桑町文化財保護嘱託員の河野すいさん(56)は、町の民俗文化財収納庫の解体作業に携わっている。中の文化財を隣接する公民館の講堂に運び出すために、扶桑中学の卓球部の皆さんに手伝ってもらうことになった。河野さんは三十年以上の間、小・中学校で教員をしていた。その経験から「なぜ僕たちがしなくちゃならないの」とか「暑いのに嫌だなあ」という声が上がることを覚悟で、当日を迎えた。
作業の始まる前に「扶桑町の生活の歴史を知る大切な文化財なので丁寧に運んでください。そして皆さんもけがをしないようにね」などと幾つか注意点を伝えた。ところが、全員が最初から最後まで河野さんの方に顔を向けて、まじめに話を聞いてくれるではないか。予想外の態度に驚いてしまった。
それだけではない。きびきびと愚痴一つ言わず、先輩・後輩が一丸となり何度も倉庫と講堂の間を往復して運んでくれた。さらに、こんなことも。文化財保護委員の方の指導を受けつつ、生産用具、生活用具、養蚕用具と分類して配置・整理していた時のこと。生徒の方から「これは生活用具ですか」「これって養蚕用具に間違いないですよね」などと問い掛けが始まり、それに「ピンポーン」「ブー」と答えて、まるでクイズを楽しむような雰囲気になった。何かを吸収しようという前向きな態度にも感心。
「金銭的に損か得かとか、目立つことだけするという世間の風潮の中で、彼らこそ扶桑町が誇るべき文化財です」と河野さん。この夏の猛暑の中、汗とほこりで汚れた体操服に笑顔がまぶしかったそうだ。