ペコリの習慣 (2008/3/16)
七年ほど前のことだそうだ。保育士の榊原峰子さん(46)が勤め先の保育園まで車で通勤する道のりでの出来事だった。
横断歩道を渡ろうとしていた分団登校の小学生の列に、車を停止させた。十五人ほどの列の先頭と最後尾に高学年の児童が、あたかも低学年の子たちをサンドイッチするかのように引率して整然と渡り始めた。
渡り終わった直後のことだった。最後の子どもがクルッと踵(きびす)を返したかと思うと、帽子を取るなりペコリと榊原さんの車に向かっておじぎをしたのだ。うれしくてうれしくて、その日一日がさわやかに過ごせたという。ささいなことだが感激がいつまでも冷めず、その気持ちを手紙にして校長先生に送った。匿名で。
その数日後のこと、同じ小学校に通う娘さんが帰宅するなり「あんな手紙を書くのはお母さんでしょ」と、うれしそうに報告してくれた。その日の朝礼で校長先生が全校児童の前で「こんな手紙が届きました」と言って読み上げたのだという。そして「何気なくしたことでも多くの人を幸せにするんだよ」と、名前は分からないけれどお辞儀をした児童のことを褒めたのだそうだ。
それから七年がたった。榊原さんは今日も同じ道を通勤している。同じ横断歩道では、今もペコリとするお辞儀が続いている。あの日の校長先生の言葉が習慣として引き継がれているのだろうか。「ペコリに元気をもらっているのは、おそらく私だけではないでしょう。みんなを代表して投稿しました」とおっしゃる。安城市の丈山小学校の子どもたちの話。