古い傘だけど (2008/12/14)
蒲郡市の広浜双美さん(55)が、勤め先の病院へ向かう途中の出来事。最寄りの電車の駅で降りると、雨が降り出してしまった。いつもは自動車で通勤しているが、その日はたまたま電車を利用したので傘を忘れてしまった。
仕方なく上着を頭にかぶって足早に歩いていると、後ろから「おーい、おーい」という声がした。何度も聞こえたので振り返ると、広浜さんを呼んでいたことがわかった。ごみの収集所に車でごみを捨てに来ていた三十歳くらいの女性だった。助手席には三歳くらいの娘さんを乗せていた。
彼女は車の中から傘を取り出して「よろしければ使ってください」と差し出した。思わず「ありがとうございます」と言い、受け取った。とはいうものの、見ず知らずの方である。「どのようにしてお返ししたらいいですか」と尋ねると、「古い傘ですから処分してください」と言われた。差してみると取っ手の部分がはずれてしまった。それでも十分ほどの道のりを、ぬれずに行くことができた。
途中、雨にぬれながら歩いている人を見かけた。見覚えのある男性だった。患者さんだ。「よろしければ入りませんか」と声を掛けた。二人とも片側の肩が少しぬれたが、一本の傘のおかげで助かった。
職場に着いて、その話を同僚にしたら「じゃあ私も今度から車に傘を積んでおこうかな」と言った。さて、その壊れた傘はというと…。もったいないので捨てずに今も職場に置いてあるという。「いつか役に立つのではと思って」