60年余の夢かないました (2009/2/22)

 一月十一日付「ほろほろ通信」で、名古屋市北区の小野寺陽子さんが六十年間余り、抱き続けた夢を紹介した。戦後の貧しい生活の中で、お金持ちのお嬢さんがピアノを弾いているのがうらやましくて「いつかピアノを買おう」と思いながら働いてきたら、七十一歳になっていたという話だ。

 これを読んだ、同じ北区の杉山佳見さん(65)から電話をいただいた。「うちのピアノをお譲りします」と。今は弾かなくなった娘さんのピアノが眠っている。母娘とも「お役に立てれば」とおっしゃる。早速、小野寺さんに取り次いだ。

 小野寺さんは、この好意を喜んで受けることにした。新品のピアノを買う矢先のことだった。金銭の多寡の理由ではなく、このご縁を大切にしたいという。専門の運送業者に依頼して搬送。翌日には調律師さんに来てもらった。

 調律師さんに経緯を話すと、こうおっしゃった。「このピアノは福運があります。第二の人生がこれから花開くのね」。聞けば、ほこりをかぶったまま使われないピアノが多いとのこと。杉山さんの使い方もよかったらしい。見事に美しい音色がよみがえった。

 ピアノ教師の友人から、七十の手習いをした。夢中で鍵盤に向かうと、すぐに「むすんでひらいて」が弾けるようになった。練習をして、今度は生まれたばかりのお孫さんに聴かせるという夢ができた。

 「これから素敵(すてき)な日々を一緒に過ごしましょうね」とピアノに語りかけている。