おじちゃん押したげる (2009/3/1)

 三好町にお住まいの山口主(つかさ)さん(71)は、五十六歳の時、低血糖症で意識を失いマンションの五階から転落した。気が付くとベッドの上にいた。一命は取り留めたが脊髄(せきずい)損傷で下半身まひの重度障害。二年の入院生活を終え退院したが、車いすの生活になった。

 福祉を受ける側になり一人暮らしの生活を始めると、健康だった時には考えもしなかった社会の問題点が見えてきた。そこで五十九歳の時、日本福祉大学へ入学し、福祉の勉強を始めた。卒業後も研究生として勉強を続けた。

 AT車限定の自動車運転免許も取得し、健常者と変わらぬ生活を送っているが、時に心無い人の言葉に傷つくこともある。スーパーで近くにいた買い物客に、高い棚の商品を取ってもらおうと頼んだ時のこと。「なぜ一人で来るんだ。介助者を連れて来い」と怒鳴られた。

 もちろん、悪いことばかりではない。買い物を済ませて自宅の集合住宅の駐車場まで戻って来た時のことだ。車いすに乗り換え、ひざの上に大きな買い物袋を乗せてエレベーターに向かい始めた。その時突然、五歳くらいの女の子が歩み寄って来て「おじちゃん押したげる」と言い、スロープを押してくれたのだ。

 大人でも相当の力がいる。幼い子どものこと、重かったろう。「この時ほど車いすが軽やかに感じたことはありません」と山口さん。「ほかにも子どもさんによく介助してもらいます。ハンディキャップを持つ自分が同じ棟に住むことで、心に優しさを育(はぐく)むお手伝いができたらいいなあと思います」とおっしゃる。