さよなら運転の日の出来事 (2009/6/7)
知多市の清水多紀子さん(68)の二歳になるお孫さんは電車が大好き。遊びに来るたび、近くの駅まで連れて行く。金網越しにホームに停車する電車を何台も見送る。運転士さんや車掌さんに「バイバーイ」と手を振るのが楽しみになっている。
さて、ある日のこと。清水さんが近くの踏切を歩いていると、線路に向けてカメラを構えている何人かの若者が目に入った。ふと新聞の「名鉄パノラマカーさよなら運転」の記事を思い出し、そのうちの一人に「もしかして、これからパノラマカーが来るんですか」と尋ねると「そうですよ。もうすぐです」という返事。「孫が電車が大好きなので見せてやるわ」と言い、慌てて家に戻った。隣の家とのすき間から、窓越しに赤い電車を二人で見る。お孫さんは大喜びだった。
しばらくたった四月八日の夕方のこと。呼び鈴が鳴って玄関に出ると「この近くで電車の写真を撮っていた者です」という若者が立っていた。あの日、清水さんが尋ねた若者だった。「常滑に来る用事があったので、帰りにお届けしようと思って」と、かばんから電車の写真を取り出して差し出した。「お孫さんにどうぞ」
家を教えた覚えはない。ずいぶん探してくれたのだろう。「お金を払います」と言ったが受け取らない。帰られてから気付いた。名前も聞いていないことに。「もう一度お礼を」と思って駅まで駆けたが、電車は出てしまった後だった。数日後、やって来たお孫さんに写真を見せると大喜び。ずっと離さずに手にしている。「お兄さん、本当にありがとう」