友人の不始末 (2010/3/14)

 名古屋市名東区の後藤決美(きわみ)さん(64)が、バス旅行に出掛けた帰りのことだ。地下鉄の伏見駅から大学生らしき三人組が乗り込んできた。立っていた一人が座っている友人に「大丈夫か」と尋ねた。どうやら飲みに行った帰りで、ずいぶん酔っているらしい。

 「大丈夫じゃない」と答えた次の瞬間、床に吐いてしまった。何度も何度も。間もなく次の栄駅に着いた。友人が付き添い電車を降りて行く。ところが、もう一人の友人は二人を見送るとそのまま車内に残り、ポケットティッシュを取り出して汚れた床をぬぐい始めた。

 ティッシュは二、三枚しかない。すぐにベトベトになってしまった。顔を上げて助けを求めるかのように辺りを見回す。真向かいに座っていた後藤さんは、急いでかばんの中からポケットティッシュを二つ、ビニール袋、そしてバスの中でもらったおしぼりを手渡した。「ありがとうございます」と受け取り、黙々とふき続けた。手はもちろん、肩から掛けたデニムのかばんまでもが床に触れて汚れてしまっている。そんなことはお構いない様子。

 ピカピカにするとあらためて「ありがとうございます」と言い、電車を降りて行った。入れ替わりに乗り込んで来たお客さんが、その席に座った。あまりにもきれいになっていたので、全く気付かないようだった。後藤さんはおっしゃる。「友達の不始末をササッと行うのは年配者でもなかなかできないことです。自己中心的な人が多い中、素晴らしい青年でした。社会に出たらきっと活躍されるだろうと思いました」