縁の下の力持ち賞 (2011/11/6)

 豊橋市の井上暁子さん(66)は、静岡県焼津市の生まれ。漁港の町で育ったこともあり魚が大好き。当時、家の前を、陸揚げされたばかりのカツオを山積みにしたトラックが通った。荷崩れしたカツオが何本も転げ落ちる。それを近所の人たちが拾って晩ごはんのおかずにしたのだという。まずは刺し身。翌日には煮物や焼き物。翌々日には塩辛にするなどして、余すことなく食べた。後に、トラックの運転手はわざと落として行ったのではないかと思うようになったという。多くの人たちが貧しかった時代ゆえに。

 後年、井上さんがスーパーマーケットに勤めることになった時、迷わず魚売り場を希望した。大きなマグロのサクを切り分けたり、冷凍エビの解凍、パック詰め、掃除と大忙し。上司からは接客についてたくさんのことを学んだ。お客さまに頭を下げる角度や言葉遣い。クレームの対応も。「何をお探しですか」「今日はこれがお薦めですよ」と声を掛ける。「はらわたを取って」「もっと分厚く切って」「うろこを取って」などの注文に黙々と応じた。

 そんなある日のこと。一人の主婦が話し掛けてきた。「私はあなたがここに勤め始めてからずっと見ていましたよ」と言い、働きぶりを褒めてくれた。まさしくサプライズ。その励ましのおかげで頑張れた。そして昨年の暮れ、定年退職。社長から表彰された。その名も「縁の下の力持ち賞」。井上さんは、いろいろなところで一生懸命に働いている人たちに伝えたいという。「頑張ってください。必ずちゃんと見ていてくれる人がいますよ」と。