恩返しのコンサート (2012/4/29)

 瀬戸市の尾山寿子さん(73)には重度身体障害の息子さんがいる。範芳さん(44)だ。ポリオ(小児まひ)で四肢機能障害になった。今も車いすの生活で、寿子さんが介護をしている。

 小学校四年までは訪問授業で自宅まで先生が教えに来てくれた。ところが教育制度が変わり五年生から養護学校へ通わなくてはならなくなった。範芳さんを背負い路線バスに乗る。途中、迎えに来ているスクールバスに乗り換える。学校の授業中もそばに付き添う。それに通院も加わる。

 そんな苦労を目にして、近所に住む宮田保子さんが声を掛けてくれた。「車で送ってあげますよ」と。宮田さんは自分の仕事のスケジュールを調整して、優先的に助けてくれた。さらに二人分のお弁当までも作ってくれたという。その宮田さんに「いつか恩返しを」と思っていたが、果たせぬまま十二年前に七十二歳で亡くなってしまった。

 昨年の暮れのこと。宮田さんのお孫さんでバイオリニストの英恵さんが、留学中のドイツから一時帰国していることを耳にした。寿子さんは「今こそ恩返しのとき」と思い、瀬戸市でコンサートを開催したいと申し出た。とはいうものの、具体的にどうしていいのかわからない。すると友人の板津勝さん(67)が二つ返事でプロデュースを引き受けてくれた。名付けて「絆コンサート&アート展」。英恵さんの演奏会と地元の画家や写真家の展覧会とのコラボだ。

 一月二十八日、立ち見になるほどの盛会。板津さんが、恩返しがことの始まりであることを説明すると、会場には温かな空気が漂ったという。