どこかで会えたらいいな (2006/4/21)
二週続けて、人助けをした人の話を紹介した。どちらも、命にかかわったかもしれない出来事だ。でも、そんな大それたことじゃなくても、ちょっとした気遣いで、人はすがすがしい気分になれるものだ。
名古屋市守山区にお住まいの石川由美子さん(62)から、こんな話が届いた。五年前から新聞の夕刊を配達しておられる。この仕事を長く続けられたのは、配達先の皆さんの励ましのおかげだという。ある会社では、事務所のドアを開けるなり「ご苦労さま!」と全員がそろってあいさつしてくれる。また「風が強いから気をつけてね」とか「僕も配達していたことがあります」と声をかけられることもしばしばだと。
午後五時ごろになると、ある学童保育所から一人の男の子が現れる。小学校二、三年生ぐらいだろうか。その子は、石川さんを先導して「次はここ」と配達先をナビゲーションしてくれるという。二人で「競争だ!」とかけっこしながら配って行く。
ある日のこと、突然にその子が言った。「おばちゃん。残念、もう会えないよ」と。石川さんは一瞬言葉を失ったが、話を聞いてほっとした。詳しい事情はわからないが、昼間不在にしていた母親が、明日からは家に居るようになったのだという。母親が帰ってくるまでの間、学童保育所で遊んでいたのだ。石川さんに母親を照らし合わせていたのかもしれない。
男の子の満面の笑顔に、うれしくもあり、ちょっぴり寂しくもあり。日々の生活に追われているとついつい忘れてしまう。でも、気をつけてみてみると、心のふれあいや小さなドラマはどこにでもある。お便りの末尾の一行にはこうあった。「どこかでパッタリ会えたらいいな」