雨の朝 見つけた優しさ (2006/6/23)

 読者の皆さんの投稿の束が、中日新聞から手元に届いた。その中に、こんな走り書きがあった。「うちの娘もこういう人に育ってくれたら」。「ほろほろ通信」の担当デスクの落書きだった。甚目寺町にお住まいの永田洋子さん(63)からのお便りへの感想である。

 永田さんは犬の散歩が日課になっている。小雨の降る朝のこと。いつもの道を犬と歩いていると、少し先の道を走っていた自転車が急ブレーキをかけた。何事かと驚き、こちらも立ち止まってしまった。

 自転車に乗っていたのは、二十歳ぐらいの娘さん。自転車を道端に止めて、その場にしゃがみ込んでいる。「ははぁ、きっと何かを落としたのだろうな」と思った。でも、辺りを見渡したがよく分からない。犬に引かれて、横を通り過ぎようとしたとき、娘さんのこんな声が聞こえた。

 「だめでしょう。車が来て危ないわよ」

 独り言にしては妙だな。かといって、永田さんに向かって言っているようでもない。気になって見ていたら、次の瞬間、娘さんは道路の真ん中を横切ろうとしていたカタツムリを、そっと指で持ち上げた。そして、近くの草むらに行き、葉の上に戻してやった。

 あの独り言は“無謀”な道路横断中のカタツムリ君に対してだった、ということが分かった。再び自転車に乗って去って行く娘さんの後ろ姿を見て、永田さんのほおは思わず緩んだという。

 お便りは「あの娘さんは、きっと優しい母親になるんだろうな。悲しいニュースが多い中、温かい気持ちになりました」と結んであった。私もその娘さんに会いたくなった。