第19回 ただ、そばに居てくれる友だち

付き添う側、つまり私が倒れてしまってはいけない。だが、看病・介護に際限はない。できることなら、24時間眠らずに診ていたいが、3日も続かないだろう。体力の維持もさることながら、どうストレスを解消するかが問題だった。好きな読書をしていると、すべて忘れられた。特に小説は、その世界の中に入り込める。だが、それもタイミングが悪いと「本ばっかり読んでる!それならマッサージしてよ」と叱られる。カミさんとぶつかってイライラが募る。でも、病人と言い争うわけにはいかない。まるでプチ家出をするように、外へ飛び出して散歩した。目的なくコンビニに入って新商品を物色したり、道端のコンクリートの隙間から顔を出すスミレの写真を撮ったり。モヤモヤを吐き出して帰宅する。

一番のライフラインは友人だった。検査結果が悪かったり、カミさんが爆発したり。心の持って行きどころがなくなると、友人たちに電話しまくる。ストレートに「もうあかん」と愚痴る。そんな電話が仕事中にかかってきたら迷惑に違いない。でも、かけてしまう。こちらは生きるか死ぬかだ。いつか恩返しすることにして甘える。

さて、その友達の対応には三通りあった。愚痴や弱音を聞いてきれた後、「こうした方がいい」とアドバイスをしたり、お見舞いを送ってくれる人。実は、これは有難迷惑だった。「自分の身体も大切に」とか「お前もちゃんと食べなきゃダメだぞ」と心配してくれるのは嬉しい。だが、そんなことは言われなくてもわかっている。せっかく心配してくれたのに、ついつい「うるさい!ほおっておいてくれ!!」と言い電話を切ってしまう。ひどい話だ。こちらから「SOS」で電話しているのに・・・。心が荒み、友達を失って行く。

唯一大学時代のK君が、ただ、話を黙って聞いてくれた。私はそれまでどうだったか。前者である。友人・知人の相談を受けた時、かなりおせっかいをして来た。「よかれ」と思って。それが相手を疲弊させていたかもしれないことに、今さらながら気付いた。

もう一人、学生時代のG君。「しんどい」とメールすると「近くの喫茶店まで行くよ」と返事が来る。「やあ」とお互いに挨拶。その後、「奥さんどう?」とも「お前、顔色悪くないか」とも聞かない。「今、これ読んでるけど面白いぞ」と文庫本をカバンから取り出す。恋愛ものだ。「へえ~読んだことない」「胸キュン」などと読書談義。ただそれだけ。それがたまらなく有難かった。そういう人になりたいと思った。