第6回言の葉大賞入選作から(その2)
「言葉の力」を感じるときⅡ
京都に柿本商事株式会社という会社があります。紙専門の商社です。寺町通りで「紙司柿本」という小売店も経営しています。偶然ですが、この店の大ファンで「かばんが重いよ~」と後悔するほど、ハガキや便箋を買い込んだことがあります。
さて、柿本商事さんではCSRの一環として、言の葉大賞というコンテストを開催しておられます。「心温まる言葉、心にぐっと響く言葉、そのような伝えたい思いを、紙にしたためご応募ください」と全国に呼び掛けられました。
第6回言の葉大賞の入選作品から、紹介させていただきます。
入選 中学生部門
「支える言葉」福岡県久留米市 国立福岡教育大学附属久留米中学校1年 松藤萌
「あの人、変だね」
私は、ただむかついた。私に言われたわけではないが、私の兄に向かって言われた。私の兄は障害者である。兄は、障害者になりたくて障害者になったわけではない。そして、どこに基準があるのかと思う。「変」ということは、基準があるはずだ。私は、変な人も、普通の人も、いないと思う。なぜなら、人それぞれ必ず違う所があるからだ。
今年の夏。お兄ちゃんの診療に行った時のこと。扉の前に行った時、さりげなく扉を開けてくれた人がいた。その時に、
「大変だろうけど、がんばって」
がんばって……。単純な言葉だけど、すごく奥が深い言葉だと思う。とても、嬉しかった。きっと、「がんばって」と言った人も、今まで、いやな経験とか、嬉しかった経験とかしてきて、気持ちが分かるから、「がんばって」と言えたんだと思う。私は、「がんばって」と言った人のことがすごいと思う。また、そういうふうにきづかいが出来る人にあこがれる。
やっぱり、「あの人、変だね」と言うよりも、「がんばって」とか、支えてくれる言葉を言ってくれる人の方が、かっこいいし、すてきだと思う。それと同時に、「あの人、変だね」と言われたら、言った人に対して、良いイメージは、持てないし、あまり、嬉しくない。このことから私は、言葉には、人をきずつけたり、人を支えたりする力があるということを改めて感じた。
そして、さりげなくあたり前のように言ってくれると、前を向けるし、より一層言葉の力を感じる。だから私も、さりげなく人を前向きにして、支える言葉を言って、すてきな人になれるように、これからがんばっていきたいです。また、絶対に、人をきずつける言葉を言わないようにしていきたいです。
優秀賞 文章(手紙・作文)部門
「捨てられないレシート」北海道爾志郡 阿部 絵里
私は買い物をした後レシートをとっておくタイプではない。家に帰るとすぐにぽいっと捨ててしまう。コンビニなんかではレジのレシート入れに入れて帰ってくるほどだ。
私は5年前に結婚し、その年に息子が生まれた。初めての育児と家事で毎日があっと言う間に過ぎていった。夜中の授乳で寝不足にも関わらず、ぐずって昼寝をしてくれない息子。そんな日々にイライラが募っていった。旦那も協力してくれて、日中の力仕事で疲れているはずなのに、夜中一回は必ず起きて息子にミルクを飲ませ、私の睡眠時間を確保してくれていた。ありがたいと思いつつもいらだちが消えることはなかった。
生まれて半年ほど経った息子は夜中の授乳も減り、夜に寝てから朝方まで寝てくれるようになった。息子が泣いたら起きるのは私だったり、旦那だったり、気がついた方が起きていた。(時々私は狸寝入りをし、睡眠時間を確保していたのだが)そんなある日、旦那が仕事に出かけた後の静かなリビングとキッチン。そろそろお腹をすかせて息子が起きるだろうと、私も起きてミルクを作るためキッチンへ。するとそこにはミルクと白い紙が。
「ミルク 熱いから温度確かめてね! 120 AM6:50」
余裕もなく育児に追われていた私達。息子中心で自分たちのことは二の次だった半年。おもちゃや洗濯物が散乱したリビング。コロコロでごまかした手抜き掃除。何だか申し訳ない気持ちと「ありがとう」が私の心いっぱいに広がった。久しぶりに旦那からラブレターをもらったような気持ちになった。
ちょうど起きた息子を抱いてふとその白い紙を裏返してみると、どこかで買い物したのであろうレシートだった。そして私はそれをそっと財布にしまった。
今年5歳になった息子は、顔も性格も旦那にそっくりだ。
他の「言の葉大賞」の受賞作品や、次回「言の葉大賞」の応募要項は、こちらをご覧ください。
http://www.kotonoha-taisho.jp/
入選作品集「「言葉の力」を感じるとき」Ⅰ・Ⅱや「言の葉CONCEPT BOOK」がお求めになれます。
【発行】一般社団法人言の葉協会
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