メルマガ「志賀内泰弘の恩送り通信」トピックス№5「拙著「京都祇園もも吉庵のあまから帖」第9巻が発売!」~ネタバレをギリギリで、「人生苦しい時の心の持ち方」を一部抜粋して紹介~

メルマガ「志賀内泰弘の恩送り通信」トピックス№5
「拙著「京都祇園もも吉庵のあまから帖」第9巻が発売!」
~ネタバレをギリギリで、「人生苦しい時の心の持ち方」を一部抜粋して紹介~

 ☆今の私があるのは、友人・知人・両親・親戚・先輩・同僚・心の師など大勢の人たちの「おかげ」です。いただいたたくさんの「御恩」を次の人へと
「送る」ために、新作や約3.000本のアーカイブスから厳選してお届けします。
名付けて「志賀内泰弘の恩送り通信」です。
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拙著「京都祇園もも吉庵のあまから帖」第9巻が、7月10日に発売になりました。
おおよそ、一年に2冊のペース。
一巻に5つの話で計45編の心温まるお話を編んで来ました。
ここまで物語を続けられたのは、本当に皆様のおかげです。
心よりお礼を申し上げます。

さて、唐突ですが、お御籤で「凶」が出たら、どんな気持ちになるでしょう。
そんなん言われなくてもわかってる。
そうですよね。
気分が悪い。
でも、志賀内は喜んでしまいます。
それどころか「凶を出ろ!」と願うほど。
偏屈だからではありません。
それには「理」があります。

人生、辛い事、苦しいことは誰にもあります。
そんな時、どうやって生きていったらいいのか。
そんな「凶」にまるわるエピソードを、「京都祇園もも吉」第9巻に書かせていただきました。

ネタバレをギリギリのところで、小説から抜粋して下記に公開します。
今、辛い事がある人、
今、苦しんでいる人の役に立てたらと願うものです。

母親を失くして、父親の勇と二人暮らしの女の子、小鈴ちゃんのセリフから物語は始まります。
物語の舞台は、実際に京都に実在する大正2年創業の扇子屋さん大西常商店です。
その女将の優子さんと、若女将の里枝さんも実名で登場します。

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「もも吉お母さんも、みなさんも聞いてくれますか。
お正月にな、パパが八坂さんでおみくじ引いたんです」
 八坂さんとは、祇園祭で有名な八坂神社のことだ。
「ところが、出たんが凶やってん。
病気のところを見ると『長けれど全快すべし』って書いてあって」
「そやから小鈴に言うたんです。
長引くんやから、今まで以上に身体に気ぃつけんとあかんて。
初春から縁起でもないもん引いてしもうたさかい、おみくじ掛けに結んできました。
そやけど、なんや悪いことが起きるんやないかて気分が暗うなってしもうて、今度こそ大吉やてもういっぺん引いたんです。
そないしたら……」

 小鈴が苦笑いして言う。
「また凶やったんです」
「今度は病気のところに『用心すべし』て書いてあって」
「それからうちのこと心配して、走ったらあかん、転ばんように、もう一枚上着着んと風邪ひくて、うるそうて仕方ないんです。
うちはぜんぜん気にならへんけど、パパはがっくりと肩を落としてしもうて……」
「そやかて、二回も続けて凶やで。落ち込むのも当然やろ」
 もも吉は呆れながらも、
「勇さんの気持ちはようわかる。そやけどなぁ」
 と言い、一つ溜息をついた。

 座布団の上で裾の乱れを整える。
 着物は白地花びら散らし。黒地の染め帯には枝垂れ桜の模様、そしてピンクの帯締めをしている。
 もも吉は舞を長く続けているので姿勢がいい。
それをよりスーッと背筋を伸ばした。帯から扇を抜き、小膝をポンッと打つ。
ほんの小さな動作だったが、周りには歌舞伎役者が見得を切るように見えた。
「勇さん、あんた間違うてますえ」
「え?」
「おみくじの凶は、少しも縁起の悪いことやあらしまへん」
「でも、良うないことばかり書いてあります」
「ええどすか、人いうんはついつい慢心するもんどす。
それを神様が戒めてくださってるんや、なあ優子さん」
「へえ、うちは凶引いたら大喜びします。
もう今以上に悪いことは起きひん。あとは上に上がるだけやさかい」
 すると、里枝も口を開いた。
「うちも凶を引いたことありますえ。そやけど、こう思いました。
『今までで今が一番にええ時や』て。
そやからこれからは、神様の戒めを心に据えて、もっと良うなるように精進しよう思いました。
そう、ピンチはチャンスですえ」

 もも吉は、勇に向き直り諭すように言った。
「大西常商店さんは江戸から明治期にかけては、日本髪を結うための和紙製の元結を作ってはったと聞いてます。
ところが西洋化が進んで、だんだんと元結を使わんようになってしもうた。
それで初代が、同じ紙を使う扇子の商いを始めはったんや。
つまりピンチをチャンスに変えはったんや」
「へえ、そうなんですね」
 小鈴は感心して聞いている。

「それだけやない。四代目の里枝さんは、扇子が夏の間しか売れへんことをなんとかしたいと思わはった。
今どきどこの家でもビルの中でもエアコンが効いてる。
扇子そのものの将来に危機感を抱いて、ルームフレグランスの商品を考案しはったんや。
表の棚に飾ってあるん見たやろ」
 たおやかな色合いの清水焼の器に、細かな細工を施した扇骨が数本、差し込まれて立っている。
香料を注ぐと保香性に優れた竹骨に染みわたり、部屋中にほのかな匂いが広がる仕組みになっている。

「オシャレでインテリアとしてもええ。
そういうアイデア商品を生み出せたんも、きっとピンチはチャンスの精神の賜物やないかて思うてます」
「へえ、もも吉お母さんの言わはる通りやわ」
 と優子が微笑んだ。小鈴は、勇の背中をポンッと叩いた。
「ほらな、パパがうちのこと心配してくれるんは嬉しいけど、凶が出たからいうておどおどすることはないんや。
大丈夫、うちももう入院するんは嫌や。無理せんよう気ぃつけるさかい、パパも落ち込まんといてな」
「う、うん」
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そうなんです。
人はついつい慢心するもの。
それを神様が戒めてくださってる。
もう今以上に悪いことは起きない。
あとは上に上がるだけなんです。
ということで、
「凶」が引きたいんてすが、
引こう引こうと願うと、なかなか出ないものなのです。

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