メルマガ「志賀内泰弘の恩送り通信」第33回(その12)志賀内人脈塾「一つの出逢いが人生を変える」~「ギブアンドギブ」を腹の底に落とすためのエピソード(1) 禅語「放ては手に満てり」
メルマガ「志賀内泰弘の恩送り通信」第33回
(その12)志賀内人脈塾「一つの出逢いが人生を変える」
~「ギブアンドギブ」を腹の底に落とすためのエピソード(1)
禅語「放ては手に満てり」
☆今の私があるのは、友人・知人・両親・親戚・先輩・同僚・心の師など大勢の人たちの「おかげ」です。いただいたたくさんの「御恩」を次の人へと
「送る」ために、新作や約3.000本のアーカイブスから厳選してお届けします。
名付けて「志賀内泰弘の恩送り通信」です。
拙著に、自己啓発小説「「いいこと」を引き寄せるギブアンドギブの法則」(PHP研究所)があります。
小説の舞台は愛知県知多半島に浮かぶ小さな島“多賀良島"。
その島に異国のみすぼらしい托鉢僧・タルシルが降り立ったことから物語は始まります。
ひょんなことから、本書の主人公である「多賀良島しあわせホテル」の若女将・風見美咲 がタルシルに弟子入りし、「ギブ&ギブ」という、その一見“奇妙"な教えを実践していきます。
今回は、その托鉢僧タルシルと、美咲の会話を一部抜粋・要約して、「ギブアンドギブ」という「生き方」について説明させていただきます。
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タルシルは、掛け軸の紐を解いてクルクルッと畳の上に広げた。
一幅の書が目に飛びこんできた。
そこにある文字は素人目にも力強く感じられた。
豪胆だが、どこか枯れた味わいも受ける。筆の払いのかすれ具合が、なんとも美しい。
美咲は、その文字を読もうとしたが、達筆すぎて読めない。
「う~ん、これは『満』かな。『て』とか『に』とか平仮名は読めそうだけど・・・」
こういうのを崩し字というのだろうか。
「ここに掛けるとイタシマショウ」
タルシルは、本堂の阿弥陀如来の脇の壁に軸を掛けた。
そして、居住まいを正して軸に向き合い一礼をする。そして、合掌。
「放てば手に満てり」
重々しい声でお経を唱えるように発した。
「え?え?・・・何、何、何て言ったの?」
「放てば手に満てり」
「ハナテバテニミテリ?」
「禅の言葉です。曹洞宗の開祖、道元の教えと伝わっています」
「ど、ドウゲン?」
タルシルは、子供に説くような温かな表情で説いた。
「放てば手に満てり。お金や物など、すべての欲を捨てなさい。
欲によって手に入るものには、限りがあります。
また、いくら手に入れても、また欲しくなる。
本当に幸せになりたいのなら、今ある物をすべて手放しなさい。
その手から放ちなさい。
空っぽにしなさい。
そうすれば、反対にあなたの心は満たされるのです・・・という意味デゴザル」
「手放したら満たされるまんて、変・・・」
美咲は首を傾げた。
タルシルは、急に弱々しい声になり、呟いた。
「実はこれは、拙者を救ってくれた言葉なのです。
そして、すべての願い事をかなえる根源がここにあるのでゴザル、もちろん美咲殿の願いも」
「救ってくれた?救うって・・・何を?」
「拙者の人生をでゴザル。
拙者はある時、深い悩みの淵に陥り答を探し求めて幾年も世界中を放浪しました。
その果てに日本にたどり着き、大本山で徳元大僧正に出逢いました。
大僧正は、悩んでいる拙者の心を一目で見抜かれ、こう言いました。
『放てば手に満てり』と。
でも、その時、日本語がほとんどわかりませなんだ。
ただ『ハナテバテニミテリ』と聞こえました。
大僧正は、拙者を包み込むような瞳で、こうオッシャッタノデス。
『ギブアンドギブ』と。
お前の国の言葉に置き換えるとしたら、『ギブアンドギブ』だというのです。
その瞬間、身体中に電流が流れた如くの衝撃を受けました。
拙者は、その一言で目覚めたのでした。
そして、大僧正に弟子入りすることを決めたのでゴザル」
「ギブアンドギブなんて聞いたことないわよ。
それって、ギブアンドテイクの間違いじゃないの?」
「そう思われるのが、普通でゴザロウ。
おそらく、数年前の拙者であれば、今の美咲殿と同じように思ったことと存ずる。
しかし、その時の拙者は迷路に入り込んでいました
。答を求める流浪の民デシタ。
混沌とした暗闇の中で、出口の光を探し続けていたのデス。
だからこそ、すぐに理解できたのでしょう」
美咲には、急に涙すら目に浮かべて語るタルシルの心が読みとれなかった。
首を傾げつつ、訊いた。
「そんなに重要そうには思えないけど。
ギブアンドギブでしょ。
ギブは与えるだから、『与えて、そして与える』。
変じゃないの、そんなの。
やっぱし与えたら、貰う、ギブアンドテイクでしょ!
それでトントン。
おあいこね。
ギブアンドギブじゃ理屈が合わないわ」
「それでは一つ伺うでゴザル。
あなたの言うギブアンドテイクとは、具体的にどういうことでゴザルカ?」
「そんなの決まっているじゃないの。
お互い様、とか、持ちつ持たれつ、っていうことよ。
うちもホテル経営しているから商売の基本よ。
ギブアンドテイクで行きましょう、なんてよく口にするわ。
人付き合いの基本!いい言葉ですよね」
「本当にそうなのでゴザロウカ?」
「そうよ!」
美咲は、ちょっと意地になって答えた。
いつしか、二人は真正面に向き合っている。
「では、禅問答を一つ。
もし、美咲さんが旦那さんに毎日お弁当を作ってあげているとイタシマショウ」
「突然、何を言い出すのよ。
第一、私まだ結婚してないけど・・・彼氏もいないし」
「例え話でゴザル。
共稼ぎにもかかわらず、美咲さんが一人で洗濯もして、家の掃除もして旦那さんに尽くしてイマス。
結婚記念日。
特に今年は10周年。
美咲さんも、旦那さんがどんなプレゼントをしてくれるか期待していました。
ところがでゴザル。
その夜、待てど暮らせど旦那さんは帰って来ない。
豪華な料理を準備していたのに、とっくに冷めてシマイマシタ。
夜中の12時過ぎに、呼び鈴が鳴って玄関を開けると、旦那さんは酔っぱらって意識不覚の状態です。
友だちも一緒にその場にバタンと寝てしまいました。
その時、美咲殿ならいかに?」
美咲は、例え話とはいうものの腹を立てて言う。
「そんなのすぐに離婚よ、離婚!」
「なぜ怒るのですか?」
「当たり前でしょ。
一生懸命に料理を作って待っていてあげたのに。
普段、旦那さんのために家事をして尽くしてあげているのに。
指輪の一つでも買ってくるのが当たり前でしょ。
結婚記念日をなんだと思っているのよ」
タルシルはポンッと膝を打ち、美咲の瞳に指差した。
「今、美咲さんは『のに』とおっしゃいましたね。
なぜ、腹が立ったのかというと、料理を作ってあげた『のに』、家事をしてあげている『のに』、酔っぱらって帰ってきた。
プレゼントもくれない。
結婚記念日を忘れていた。
つまり、旦那さんにギブしていたにもかかわらず、テイクしてくれなくて裏切られたという思いがあるから腹が立つのですね」
「裏切りなんて大袈裟だけど、ま、まあそういうことかしら」
「まさしく、ギブアンドテイクの落とし穴は、ここにあるのでゴザル。
美咲さんは、旦那さんから結婚記念日にプレゼントを買ってもらいたという「テイク」を期待して、家事をしていたわけではないでしょう。
しかし、腹が立つということは、心のどこかでやっぱり『見返り』を期待していたのです。
それが『のに』という気持ちに出た。
そうでなければ、腹は立たないはずデゴザロウ」
「・・・そうね」
美咲は、ハッとした。
今まで、心の中にもやもやとし立ち込めていた靄が、パア~と晴れた気がした。
「ギブアンドテイクというのは、人間の怖ろしい欲の棲家となりうるのでゴザル。
その欲とは、「○○してあげたから、○○して欲しい」という欲デス。
相手に、「見返り」を求める欲デス。
世の中のトラブルのほとんどは、人間関係によるものデス。
○○してあげたのに、○○して『くれない』。
そう言って文句を言う。
すると相手は、お前だって、この前○○してやったのに、○○してくれなかったじゃないかと反論する。
『のに!』『くれない!』と言い合いになる。
『のに』ばかりと言っている人は幸せにはなれないのでゴザル」
「そういえば昔から、うちの爺ちゃんが耳にタコができるくらいに言うの。
美咲『情けは人のためならず』だぞって。
私、それってキレイごとだと思ってた。
だから、いつも人に情けっていうか、人に何かしてあげる時、心の中で必ず見返りを期待してるんです。
だから、心が苦しかったのね」
タルシルの説法を聞き、美咲の顔つきが別人のように穏やかになった。
「でも、・・・どうしたらいいのよ」
「人に何かしてあげる際には、『見返り』を期待しないように心掛けることでゴザル。
それも、とことん。
サッパリ。
ギブしたことを忘れてしまうでゴザル」
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