池田則浩さん・世界一ヘタクソな合唱団(その1)

友情と平和のハーモニー 少年少女合唱団 地球組

世界一ヘタクソだけど・・・

 愛知県に、代表の池田則浩さん自身が「世界一ヘタクソ」だと公言してはばからない合唱団があります。それが、「少年少女合唱団 地球組」です。メンバーは現在、約130名。その半数は健常者ですが、あとの半数はダウン症や心臓病、難病に罹った子供、知的障がい・情緒障がい、多動症の子供、さらに何らかの理由で学校へ行けなくなり「引きこもり」になったり、何らかの事情で実親と過ごせない子供たちです。
 コンサートでは、最前列に車椅子のメンバーが何人か並びます。言葉がしゃべれず、歌えない子もいます。口パクで皆に合わせるどころか、舞台の上でキョロキョロと視線の定まらない子もいます。でも、その子たちも立派な地球組の仲間です。
 そんな合唱団ですからヘタクソなのは当たり前です。でも、たぶん世界一と言ってもよいほど、「聴きたい」「感動したい」という人たちが大勢コンサートにやって来ます。そう、世界一ヘタクソだけど、たくさん観客を呼べる合唱団なのです。

「嫌がらない 邪魔にしない 怒らない」

 知的障がいと情緒障がいを併せ持つ、A君の話をしましょう。A君は小学校1年生の時に、お母さんと一緒に地球組に参加しました。練習は月に2回、2時間です。最初は、その場に立っていることも、椅子に座ってじっとしていることもできませんでした。みんなが練習している時にも、椅子の上で絵を描いていたり、他ごとばかり。でも、代表の池田さんは毎回、「一緒にやろ!」と優しく声を掛けます。
 池田さんは合唱の指導方針として決めていることがあります。それは「嫌がらない 邪魔にしない 怒らない」ということです。さまざまな障がいを持つ子供がいます。いきなり練習場に来ても、最初は誰一人友達もいないのですから、落ち着きがなくて当たり前。その子たちに、まずは居場所を与えてあげることが大切だと考えるからです。
 池田さんは根気よく接します。3年、4年と経つうちにA君に変化が現れました。だんだんと練習中に歩き回ったりしなくなったのです。そして2時間、じっと座っていられるまでになりました。でも、歌うことはできません。普段から「あ~」としか発音できないのですから、当たり前です。

奇跡を巻き起こす地球組

 ある日、池田さんはふと思いつきました。A君はしゃべれないけれど、ちゃんと呼吸をして生きているということは、リコーダーを吹けるのではないか。そこで、リコーダーを渡しました。すると、譜面は読めないのに、リズムを取って音階を理解し、曲を演奏できるまでなったのです。コンサートでは、三人でリコーダー合奏発表を果たしました。音楽療法という病気治療の方法があるように、音楽は人の感性に響き奇跡を起こすのです。
 池田さんは言います。
 「養護学校や特別支援学級ではクラスの友達のほとんどが、授業中、じっとしていられません。それが普通です。地球組では、健常者と障がい者が一緒になって練習します。デキる子とデキない子が接する場があるのです。ここが大きな違い。何年も根気よく続けるうちに、デキない子がデキる子を見ていて、じっとして練習に参加できるようになるのです」
 何年も強制せずに見守り続けること。その我慢強さ、鷹揚さにただただ頭が下がります。

あの子を喜ばせたぞ!

 やはり「あ~!」としか言葉を発せられない子がいました。B子ちゃんです。ずっと車椅子で寝たまま、20歳を過ぎても首もすわらないメンバーで最も重度の障がいの女の子です。コンサートでは舞台に上がりますが、歌うことはできません。しかし、間違いなく、地球組のメンバー第1期生です。
 さて、コンサートが始まりました。仲間が歌い始めます。みんな一生懸命です。一緒に歌っていると、こんな瞬間があります。全員が「あ!上手く歌えたなぁ~」と思えた時です。その時です。B子ちゃんが、「あ~!」と声を上げました。なんだろう?・・・観客の多くは、こう思うかもしれません。「嫌だな、せっかく上手く歌えたのに」と。それが健常者にはそれが単なる「雑音」に聞こえてしまうのかもしれません。
 でも、合唱団の仲間は、心の中で「ヤリー!」というガッツポーズをします。B子ちゃんが、上手く歌えたことを評価してくれた。同じ舞台の上で聴いていて、心地よいから「あ~!」と言ってくれたのだとわかるというのです。
 「あの子を喜ばせたぞ!」というのが、メンバーの最大の喜びなのです。
 コンクールでは点数を付けて順位を競います。それも合唱。でも、歌う喜びはそれだけではない。一緒に歌えなくても同じ舞台に立つだけで、心が一つになれる力がある。合唱の知られざる力を知りました。