「時間をかけることの意味」

渡辺経営コンサルタント事務所 季刊誌「かけはし」vol.104号(令和2年7月号)

何をやるにせよ、すぐに成果に結びつくというものではありません。日本人の主食となる稲作においては、田を耕し、種を蒔き、苗を育て、田植えをし、収穫するまでに半年以上の時間を要します。果樹は桃、栗三年、柿八年といわれるように、数年から十数年の時間をかけないと美味しい果実は収穫できません。床柱に使用する杉を育てるとなると、最低でも五十年以上かかるといいます。杉苗を植えても、子や孫の代どころか、ひ孫の代にならないと商品として販売することができないのです。

「十年偉大なり、二十年畏るべし、三十年歴史なる」という名言があります。ある程度の時間を投入し、コツコツコツと地道な努力を積み上げなければ成果には結びつかないという教えですが、そのためには「小さな努力で大きな成果を上げる」という神業(かみわざ)的な考えに立つのではなく、「大きな努力で小さな成果を積み上げていく」という考え方に立って努力することが賢明だと思います。
江戸時代後期の農業指導者として六百の村々を再生し、多くの藩の財政再建に貢献した二宮尊徳は、「積小為大」の大切さを説き実践しました。

また、数学界で最も権威のあるフィールズ賞を授与され、昭和五十年に四十四歳の若さで文化勲章を受賞された広中平祐(へいすけ)先生を、周りの方々は抜群の才能の持ち主だと評価されていますが、広中先生ご本人は「抜群の才能があって勲章をもらったのではないのです。広中平祐は抜群の努力家なのです」と語っておられます。その広中先生の努力の定義とは、「人以上に時間をかけること」だそうです。

私のような凡人が夢、ビジョン、志を実現したいと思うなら、人より多くの時間を投入しなければなりません。ここに時間をかけることの意味があると考えます。私の周りにいる師や畏友を見ていると、時間をかけ手を抜かないでコツコツコツと取り組んでいると、創意工夫が生まれ、周りから協力者や支援者が現れ、志のネットワーク(人脈)が形成され大きな力となっていくようです。
「地味に、コツコツ、泥くさく」をモットーに、時間をかけて取り組んでいくと、いつか芽を出すことができると信じています。