神様が事故を起こしてくれたのです(その2)

私が一番受けたい「ココロの授業」
比田井和孝
神様が事故を起こしてくれたのです。その2
(前号のつづき)

岡山県の松井克さんは、六年前までトップ営業マンでした。敢えて金髪にして自分を追い込み、「これが俺のやり方だ! トップを取れば文句ないだろう!」と言わんばかりにストイックに働き続けていたのです。「何が何でも一位を取るんだ!」とバリバリ働いていた松井さんはそんな時に事故に遭い、左足を失います。松井さんは考えました。「もしかしたら、今までの生き方に原因があったんじゃないか?」と。そして、「与えられたこの命を、誰かのために使いたい。誰かの役に立ちたい!」と考えるようになり、辛いリハビリにも耐え、義足をつけてキャリアカウンセラーを目指して勉強を始めました。その頃、拙著「私が一番受けたいココロの授業」と出会い、長野まで私に会いに来てくださったのです。
私は、松井さんのことをブログに書きました。すると松井さんからこんなメールが届いたのです。

ご紹介頂きありがとうございます。思わず、「この人かっこいい」と他人事のように読ませて頂きました。美恵先生の目には、すごくて、かっこよくて、強い人、に映ったようですが、本当は、強いふりをしているだけで僕自身は、すごく弱い奴で、しかもとても小心者です。本当にすごくて強いのは、このかっこいい義足や、僕を支えてくれている人達の方なのです。
そんな松井が、強くてかっこよく映ったとしたら、おそらくそれは、家族や友人や周りの皆さんが『足がない? だから? それで?』と、普通に接してくださり、僕を特別扱いしないことで、僕の自尊心を守ってくれているおかげなのだと思います。そうすると、不思議なことに『足がないことは別に大した事ではないんだ』と、思えるようになるんです。すると、無くなった足を気にして悩んで動けないでいる自分がおかしく思えてきて、自分には、まだ『立ち上がるチカラ』があるじゃないかと、『前進するチカラ』が沸いてくるのです。さらに『社会の中へ出て行ける勇気』が出てきて、おかげさまで『生きていくチカラ』を身に付けることできました。
松井が、「スーパー美脚」だとか言って義足の自慢話をさせて頂いているのは、そんな話を必要としている誰かに僕の話が何らかの形で伝わって、『その人には、その人にしか味わうことの出来ない、とっても素晴らしい人生があるんだ』と気付いて頂けたら…と願っているからなのです。
まだまだ、キャリアカウンセラーとしては未熟者で修業中の立場にいますが、ご紹介頂いたことに恥じぬように、日本一の熱いキャリアカウンセラーになれるように一歩ずつ努めて近づいてまいりたいと思います。

…私は、松井さんの言葉に思わず涙ぐんでしまいました。私は、ブログで「松井さんの強さ、潔さを感じた」とお伝えしたのですが、それは単に「苦難を乗り越えて明るく過ごしている」という部分にスポットを当てて「強さ」と言いたかったのではなく、「自分のすべてを正直に伝えてくれる」という部分に、とても気持ちの良い「潔さ」を感じたと伝えたかったのです。そこが「カッコイイ」と思ったのです。
松井さんは、「自分はすごく弱い」「小心者なんです」と書いていましたが、そういう事をスッと言えるのはすごいな…と思ったんですね。「以前は自分の事しか考えていなかった」ということまで正直に話してくださいましたもの。
私は、松井さんが目をキラキラさせて、生き生きと話す表情を見つめながら、「どうしてここまで正直に話せるのだろう」「このエネルギーの元はなんなんだろう」と、ずっと考えていました。ここまで松井さんが自分をさらけ出してくださる裏には、松井さんの心の中に、しっかりとした、ものすごく厚い土台というか、芯となるものがあるのではないかと考えたのです。
そして、すべての話のベースが「感謝」なんだ、と気づいたときに、すっと納得できました。松井さんのお話には、とにかく「感謝の気持ち」があふれていたのです。事故を起こしてくれた神様への感謝、自分が生きていることへの感謝、家族や支えてくださる人達への感謝etc…。そして、私には、松井さんの「感謝の気持ち」に松井さん自身も支えられているように感じられました。
「生きているだけでありがたい」「こんなにたくさんの人が支えてくれてありがたい」…だから僕は、頑張れる。…だから僕は、人の役に立つ仕事をするんだ! …少しでも人の役に立てるのならば、喜んで自分のこともさらけ出したい、という流れを感じたのです。私は、松井さんの「強さ」は、「感謝の心」が持つパワーだと確信しました。「感謝の心」が持つパワーって本当に素晴らしいですね。松井さんも、「感謝の心」のパワーでこんなに変わったんですものね。