どんな仕事でも人を幸せにできる(その2)

私が一番受けたい「ココロの授業」

比田井和孝

どんな仕事でも人を幸せにできる 2

前回、靴磨きのおじさんとの出会いのお話と、そのおじさんに靴を磨いてもらった福岡の女子高生、Oさんの話をしました。Oさんは「人を幸せにするフルート奏者」になりたくて東京の音楽大学を受験し、一次試験の合格発表を見に行く前に、靴を磨いてもらったのです。おじさんに「合格発表の前に靴を磨きに来た人は、みんな合格したよ」と言われ、安心して見に行った結果は見事合格。今回は、Oさんのその後の話です。

さて、一次試験の後、しばらくしてOさんからこんなメールがありました。

お陰さまで、二次試験で一番良い演奏ができ、何とか通過できました。先日、三次試験も無事に終わり、後は明日の最終合格者発表を待つのみです。本当にここまでこれただけでも嬉しいです。「結果」は、神様が私にとって一番良いものを決めてくださるので、どんな結果でも受け入れる覚悟です。明日一時の合格者発表前、十二時頃に、また靴を磨いて頂こうと思っています。

Oさんは二次試験にも合格したんですね。良かったです。それにしても、「結果は神様が私にとって一番良いものを決めてくださるので、どんな結果でも受け入れる覚悟です」なんて、カッコイイですね。「神様は自分にとって、最良の結果を用意してくれている」って言うんですよ。それが例え「合格」でも「不合格」でも。だから「覚悟は決まっている」って。彼女はまだ高校三年生ですよ。普通、なかなか言えないですよね、こんなこと。
しかも、明日は私も東京に出張です。これは靴磨きに行くしかありません。もしかしたら、Oさんに会えるかもしれません。でも、十二時頃といっても、そう簡単には会えないだろう…と思いながら、東京に向かいました。

ドキドキしながら、その場所に行くと、靴磨きのおじさんがいるではありませんか! 間違いありません。先日、靴を磨いてもらったおじさんです! しかも、磨いてもらっているお客さんは女性です。
「おーっ! 彼女はもしや!」…でも、私は彼女の顔を知りません。靴磨きが終わって、彼女が立ち上がった瞬間、「もしかして、Oさん?」と聞きました。
ビンゴです! Oさんです! なんというタイミングでしょう。感動しました。まさかここで会えるとは…。
思わず話が弾みます。
「二次試験、合格おめでとう! これから最終の発表、見に行くんだよね。合格しているといいね!」
「ハイ!でも、最終選考に残った人で、試験官の先生にフルートを教わっていないのは私だけなんです。他の受験生はみんな試験官の先生の教え子なんです。だから、もしかしたら不利なのかもしれません。でも、私は、そういうことに関係なく、正々堂々と合格したいんです。」
この言葉にまたしびれました。Oさんはどこまで、カッコいいんでしょうか。
その日の夜、Oさんからメールが届きました。

今日はお疲れさまでした。大学は不合格でした。悔しいけど、やるだけのことはやったので後悔はしていません。むしろ、すごく幸せな気持ちです。これまで本当にたくさんの人に支えてもらって、感謝してもしきれません。将来、この出来事が、「自分にとってプラスになっていた」と断言できるように頑張りたいと思います。

残念な結果ではありましたが、私は、また感動してしまいました。「むしろ、すごく幸せな気持ちです」って…もう、参りました。やりきった人の言葉はすごいですね。Oさん、立派です。
きっとこの結果は、Oさんの将来にとっての最良の結果なんだと思います。きっと、「あの時、あの大学に落ちたから、今の私がいるんだ」って言えるような人生が待っていると思います。彼女は、学費免除で合格した私立の大学に行くそうです。でもこの大学も学費免除枠はたった一人なんですって!その一人が彼女なんです。それだけでもスゴイですよね。
翌日、Oさんからこんなメールが届きました

これから今までお世話になった方々に恩返し出来るように東京で頑張ります! 私がコンサートを開いたら招待券を送らせてください♪

最後にOさん、こんなことを言っていました。
「大学に入ってからが、大事なんです。合格してしまうと、それで安心してダメになってしまう人がたくさんいるんですって。だから、これからが大事なんです」って。
私は彼女と話をさせていただいて、「人を幸せにするフルート奏者になりたい」という、彼女のまっすぐな意志を感じました。それは、たとえ試験に不合格になっても絶対にぶれない、強い意志です。そして、さらに周りの人達に感謝できる心を持つOさん…彼女の「あり方」を見ていて、彼女なら、絶対に立派なフルート奏者になれると確信しました。
 何年後かはわかりませんが、「え~っ、あの人が、昔、比田井さんが言っていたOさんなの?」なんていうお話ができると思います。楽しみにお待ち下さい!