「誰かのため」に頑張る人は応援したくなる

私が一番受けたい「ココロの授業」
比田井美恵

「『誰かのため』に頑張る人は応援したくなる」

私が勤めている専門学校には、公務員を目指す「公務員コース」があります。市役所の職員や警察官・消防士などの公務員試験合格を目指して、毎年たくさんの学生が入学してくるのです。親元を離れて初めての一人暮らしを経験する学生もたくさんいます。
先日、「我武者羅應援團」が学校に来ました。彼らは、テレビでも何度も取り上げられて、その「本気の応援」が感動を呼び、今や学校・企業等様々な団体からのオファーが殺到している人気の応援団です。今回は、公務員試験を目指して頑張る当校の学生達の応援をしてくれることになったのです。我武者羅應援團のみなさんは、単に「○○に勝つように頑張れ!」という応援はしません。応援する方の話をじっくり聞いた上で、その人が本当に頑張っていることや、その人のいいところを見つけて認め、その上で応援してくださるのです。
応援の前日、我武者羅應援團のみなさんと、A君という男子学生が話をする機会がありました。A君は、事前に我武者羅應援團のDVDを観て、その本気さに心を打たれて号泣した学生です。A君は、消防士を目指していました。
団長の武藤貴宏さんは、A君に聞きました。
「なぜ消防士になりたいの?」と。
A君はこんな風に話し始めました。
「うちの兄弟は、俺以外はみんな社会人で、ちゃんとした仕事についていて…学校の成績も良かったんですよね。…でも、そんな中で俺一人、成績も良くなかったし、中学・高校と、ずっと悪いことして親を困らせてばかりいたんです…。
以前、俺が、近所の人にすごく迷惑をかけたことがあって…近所の人が怒鳴りこんできたんですよ。『どういう教育しているんですか!』って。その時、うちの親はひたすら『すみません、すみません』って俺のために謝ってくれたんだけど…俺はその時にちゃんと親に  「ごめんな」も言えなかったんです…。」
…そう話しながら、彼はボロボロ泣いています。
「でも、そんな俺でも専門学校に行きたいって言ったら、『いいよ』って言ってくれて…一人暮らしでお金もかかるのに、そんなお金もみんな出してくれたんですよ。
時々、親から荷物が届くとカップラーメンとか食べ物がいろいろ入っていて、それを見たら、こんな俺のためにもこんなことまでしてくれるんだって嬉しくって。でも、会っても素直に「ありがとう」なんて言えなくて…
俺、「ごめんね」や「ありがとう」が直接伝えられないから行動であらわすしかないなって思っているんです。きっと、消防士に合格して俺が人の役に立つようになったら親もすごく喜んでくれると思うんですよね…」
一言一言、言葉を選んで、絞り出すように話しながら、A君の涙は止まりません。私も部屋の隅でもらい泣きしてしまいました。彼の中で、「親も喜んでくれる立派な仕事=消防士」だったんですね。消防士になれば、親が喜んでくれる、今までの感謝の気持ちが表せる、とそんな思いでずっと頑張っていたんですね…。
A君の言葉は続きます。
「でも、俺、今まであまり勉強してこなかったから、一生懸命勉強しても、なかなか点数が伸びなくて、せっかく親が、学費もアパート代も出してくれているのに、こんなんじゃまた親に迷惑かけると思って…」
…彼は、不安で不安で仕方ないんです。真剣に消防士になりたくて、必死で頑張っているからこそ、不安になるんですね。涙が出るのは、頑張っている証拠です。不安になるのは、「思い」が強い証拠です。人前でもボロボロ泣けるのは、素直な証拠です。
我武者羅應援團のみなさんは、話を聞き終えると、涙ぐみながらA君を精一杯、応援してくださいました。A君は応援されながら、やっぱりボロボロ泣いていました。
私は、学生がこんな思いで勉強しているなんて知りませんでした…。胸を打たれました。そして、彼を、心から応援したいと思いました。彼の思いが直球で伝わってきたからです。A君の涙は、とても清々しいものでした。私はきっと、彼の涙を…そして、彼の思いを一生忘れないでしょう。
以前、こんな言葉を耳にしたことがあります。「○○円稼ぎたい、いい車に乗りたいなどと、『自分のため』に頑張る人は応援する気にならないけれど、誰かを助けたい、誰かを喜ばせたいと『人のため』に頑張る人なら、応援したくなる」
…「公務員」というと「安定した仕事」というイメージがありますが、A君は、「自分が安定した仕事に就くために(=自分のために)頑張る」のではなく、「親を喜ばせるために…親に感謝の気持ちを伝えるために頑張る」んですね。だからこそ、私も、自然と「応援したい」という気持ちになれたのだと思います。
A君は今、まさにガムシャラに勉強を頑張っていることでしょう。A君のように、周りの人に感謝できる、素直な青年にこそ、ぜひ消防士になってもらいたいものです。頑張れ!A君!