対談・七田厚×木下晴弘「父親ならではの役割とは」

ゲスト対談
株式会社アビリティ トレーニング代表取締役
木下晴弘×七田厚
父親ならではの役割とは?

講演会やセミナーなどで、人の心を動かす「感動」を、多くの人に伝え、
全国を飛び回っておられる木下晴弘さんは、
高校生の長女を筆頭に、一男二女のお父さんです。
父親としての子育ての関わり方についてお話しいただきました。

「8秒間の抱きしめ」を実践したら、
親子の関係が改善!
七田 6年前に、父、七田眞と対談を していただき、 その後も、『夢そだて』 の誌面等でお世話になっております。
木下 実は、わが家の親子関係がうま くいっているのは、眞先生の教えのおかげです。 私はそれを即実践しました。
七田 そうなんですか。どのように?
木下 眞先生との対談以来、私が子ど もに伝えているのは「愛している」ということだけです。子どもの成績が良 ければ当然喜びます。でも、悪くても同じように喜びました。最初、子どもは不思議な表情で、「こんな成績だっ たのに、なんで喜んでいるの?」と。そこで、「パパはあなたが元気なことに幸せを感じているのであって、テストの成績はあなたという人間じゃないでしょ」と。それを繰り返しました。
七田 すばらしいですね。
木下 今日は朝早く家を出たのですが、上の娘がついてくるんです。「どうしたの?」と聞いたら、「パパを見 送っているの」と。「パパ、幸せ」と、8秒間の抱きしめをしたら、「私も幸 せ」と、ニコーッと笑ってくれました。
七田 いいですね。
木下 それまでは、「成績の良い私だ け大事にしてもらえる」的な感覚が生じていたように思います。 この春、 中学を卒業しましたが、おかげで成績も伸びて、卒業生代表にも選ばれました。
七田 私の場合、子どもの教育関係の 仕事なので、必然的に子どもとの関わ りも多くなります。他の仕事ならこうはいかなかったかもしれません。でも、子どもとの関係は、量じゃなくて密度だと思っています。
木下●量じゃなくて密度?
七田 はい。女性の社長さんで、とても忙しくしておられる方の講演でお聞 きしたんですが、娘さんが人から「寂しくない?」と聞かれた時、「寂しく ない。だって母は私のことが好きだから」と答えられたそうです。お母さまはどんなに忙しくても、毎晩8時ごろに電話をして、「今日、何があったの?」 などと聞かれていたからでした。 それで心がしっかりつながっていたと。
木下 なるほど。
七田 その話を聞いた時、私は「愛し ている」と親が思っているだけではダメで、子どもにちゃんと伝わってなけ ればいけないと思いました。 食べ物も吸収されないと栄養になりません。そこで、忙しいお母さんたちに、「時間 じゃないんですよ、5分でもいいんですよ」と伝えると安心されます。 しかし、「8秒間の抱きしめ」を即実践されたのはすごいですね。
木下 眞先生に教わった時、「どうし て8秒なんですか?」とお聞きしたら、「8秒が、愛が伝わる必要最小限の時間」と言われました。なるほどと思い、それから毎日しています。でも、中学生の息子は「いい、やめて」と(笑)。だから、言葉で伝えます。「愛しているよ」と。照れくさそうに「うん」と答えていま すが、喜んでくれていると思います。 下の娘は、上の娘としていると、「パパ、私も」と来てくれる。 眞先生の教えは、私にとっては救いの教えです。
七田 いいお話を聞きました。

お父さんが、お母さんに愛と感謝を伝えることも子育て参加の一つ

七田 わが家は勉強に関しては私の係で、健康に関しては妻の係。でもお互 いにカバーし合うこともあります。
木下 私のところは、私が最後の砦み たいな感じ。子ども母親父親という感じです。妻に感心するのは、睡眠時間がどんなに短くなっても、最後の最後まで、子どもの勉強に付き合ってあげていること。だから、「あなたは本当にすごいよね」と感謝を伝えています。自分が直接子育てに関わるのも大事ですが、妻に愛と感謝をどれだけ伝えるかによって、妻の子どもに対する優しさ度合いが変わってくると思っています。それも父親の子育て参加なのではと。
七田 逆に、夫婦の間でトラブルがあって、それが親の気持ちに表れると、子どもにしわ寄せがいきますよね。
木下 おっしゃるとおりです。塾の講師をしていた時、トップクラスの子の成績が、突然最低クラスになったことがありました。実は、その子の進路について両親の意見が合わなかったんです。けれど、勉強しない自分を怒る時だけ意見が一致することに気づき、彼女は勉強しない子を演じて、二人の仲 を取りもとうとしました。子どもは、家庭を円満にする役割を演じることがあるのだと気づかされました。不良っぽい子どもたちも、そういう心理が働いているのでしょうか?
七田 父がよく言っていたのは、物を 盗むのは、親の愛が欲しいというのが具現化された形だと。だから、本当に欲しいのは物ではなく親の愛だと。
木下 愛情が足りないとわかった時 に、どう接していけばいいですか?
七田 子どもと同じ目線で、一緒に何かをすると自然と心が通い合います。私はピアノを習っていたので、娘の卒業記念に連弾を行うことになったのですが、練習を通して、お互いの思いや りの大切さを改めて感じました。
木下 やる前と後で変わったと感じられることは?
七田 子どもの表情が、以前より穏やかな感じになったなと。
木下 連弾なんてオシャレですね。
七田 もう娘の方が上手なので、結構しんどかったです(笑)。同じ目線でするということで、もう一つ。この間、 うちの会社が漢字検定の準会場の資格 を取ったので、親子で受験しました。 小6の息子は5級、中2の娘は4級、 私は2級。ゲーム機に漢検のソフトを 入れて勉強していたんですが、1台しかないので、間近になると、「貸して、貸して」と。なかなか楽しかったです。結果は3人とも合格。
木下 おめでとうございます!

音頭を取って家族の行事を行うのは 父親の大切な役割

七田 それから毎年大晦日に「わが家の10大ニュース」を発表しています。私が音頭を取って、もう15年くらい。「お兄ちゃんが大学に入った」とか、「家に犬が来た」とか。
木下 粋ですね。どうやって内容を決められるんですか?
七田 私がざっと書いて、みんなで「これが入るんだったら、こっちじゃない?」とか話し合って。実は、それが子どもの成長記録にもなります。
木下 そういうのは、父親が音頭を取った方がまとまりますよね。
七田 そうです。
木下 いいことを聞いてしまった (笑)。さっそく実行します。これを年賀状に書いてもおもしろいですよね。 「わが家の昨年の10大ニュース」ということで。
七田 いいアイデアだと思います。
木下 うちも年賀状を作る時は、10月ごろから家族で考えます。ねずみ年の時は、ねずみ小僧の衣装を借りてきてみんなで着て、見得を切って写真を撮りました。タイトルは「ねずみ小僧参上!」。 それぞれが「今年は○○をいただきに参ります」と いうもので、 妻は「永遠の美貌」、子ども は「部活のポ ジション」や 「水泳の級」、 私は「わが家での居場所」(笑)。 あの時、 一体感というのをすごく感じます。
七田 子どもが大きくなると、一緒に出かける機会も減ってきますからね。
木下 それと、社会での役割などは、 私が話をしています。そうしたら娘は中学の卒業文集に、「私はどんな仕事に就きたいという希望はまだ持っていない。でも、人の喜ぶことをする。 それは自分に返ってくる。それが人生の法則そのものである」と書きました。 私がずっと言ってきたことなんです。 与えたものが返ってくるよと。すごく 成長したなと思いました。
七田 うれしいですよね。このような話をするのも、父親の大事な役割ですね。