対談・志賀内泰弘×七田 厚「ギブ・アンド・ギブ」の思いやりが、幸せな人生を作る
ゲスト
対談
コラムニスト
志賀内泰弘×七田 厚
「ギブ・アンド・ギブ」の思いやりが、幸せな人生を作る
「思いやりでいっぱいの世の中をつくろう」をテーマに、講演や執筆など、さまざまな活動を行う志賀内泰弘さん。 苦い経験を乗り越えて獲得したという志賀内さんの人生哲学には、子育てにも役立つヒントがいっぱいです!
ある通りすがりの 男性との出会いが、 私の人生を変えました
七田 さまざまな活動でご活躍の志賀内さんですが、作家としても数々のベストセラーを世に生み出しておられますね。実は、父の七田眞が生前、志賀内さんの『元気がでてくる「いい話」』 (グラフ社)という著書を僕に薦めてくれたことがあるんです。
志賀内 そうでしたか! ありがとうございます。
七田 コンビニエンスストアの実話を 元にした『なぜ、あの人の周りに人が 集まるのか?」(PHP研究所)も、発売直後に購入したのですが、机の上に置いていたら、私が読むよりも前に、 中学生の息子がテスト前だというのに熱心に読んでいて、「これ、面白い!」 と絶賛していました。
志賀内 お子さんも手にとってくださったのですね。 とてもうれしいです。
七田 志賀内さんは、かつて2年間、 金融機関でサラリーマン生活を送っていたそうですね。独立して、現在のような多彩な活動を始めるきっかけは、何だったのでしょうか?
志賀内 大きなきっかけは、今から20 年前、サラリーマン時代の出来事でした。地下街をぶらぶら歩いている時、白い杖をついた目の不自由な男性が歩いていて、すれ違った人にぶつかってよろけたんです。思わずそばに駆け寄って「大丈夫ですか?」と声をかけ、その男性の目的地までご案内しました。途中で、その男性に「あなたは駅員さんですか?」と聞かれたので、「いいえ、通りすがりの者です」と言うと、「えっ!」とすごく驚かれました。駅員さん以外に、親切に声をかけてくれる人は、これまで誰もいなかったというんです。
日本は海外と比べてモラルが高く、 親切な人が多いと昔から言われてきました。でも、もしかしたら現代の日本人は、いつの間にか、誰かに思いやりを持って接する心の余裕を忘れてし まったのかもしれません。現に私自身も、この時初めて、目の不自由な人に声をかけたのですから。
この出来事に深く考えさせられ、世の中をより良くしたい、思いやりの心 を広めたいと思うようになりました。
七田 なるほど、そんな経緯があった のですね。
志賀内 とはいっても、最初は何をどうしたらいいか、わかりませんでした。この出来事から10年後にやっと、仲間たちの協力を得て、「プチ紳士・プチ淑女を探せ!運動」という活動をスタートさせたんです。
「プチ紳士・プチ淑女」とは、つい見過ごしてしまうような小さな親切をする人たちのことです。
親切な彼ら彼女らを探して、次は自分がまねをしてみる。そうして、世の中を思いやりでいっぱいにしていこう! という運動です。
全国各地の皆さんから、小さな親切の話を投稿していただき、それらを冊子やメールマガジンにまとめて、定期的にお送りしています。この運動は、今年で10年目に突入しました。
七田 2年前に志賀内さんに初めてお会いして以来、当社もサポーターの一員として、「プチ紳士 プチ淑女を探せ!運動」を応援しています。
毎月発行されている冊子は、16ページの中に素敵な話が満載で、読むうちに感動で目頭が熱くなることも......。
志賀内ありがとうございます。 御社のようなサポーターの方々のお力添えのおかげで、全国の小中学校に無料で月刊の冊子を配布することができています。
七田 子どもたちが通う小学校に冊子 を紹介させていただきました。たくさんの子どもたちが読んでくれて、心を育ててくれたらうれしいですね。
志賀内 ええ。「プチ紳士・プチ淑女を探せ!運動」を通じて思いやりの輪を広げていくことが、日本の未来を形作ることになるはず。その信念が、私自身の講演や執筆などの活動のモチ ベーションにもなっています。
生死の淵をさまよい、 感謝と思いやりの 大切さを実感
志賀内 サラリーマン時代にもう一つ、 私の人生を変える出来事がありました。
七田 どんなことですか?
志賀内 当時、上司からのいじめにあい、ストレスで内臓がボロボロになりました。洗面器をぶちまけたような大量出血で卒倒しましたが、幸い、相性 の良い医師に出会えて、順調に回復したんです。
その主治医に、ストレスの原因になった上司への文句をあれこれと語っていました。でも、主治医が言うには、「君には感謝が足りない。感謝の気持ちを持たなければ、再発するかもしれない」と。
七田 感謝ですか。
志賀内 ええ。「君の病気は治ったけれど、なぜ病気になったかが問題だ。 今回の病気は、君に気付きを与えるために引き起こされたものかもしれない。これを学びとして受け取るべき だ」と言うんです。
思い返せば、確かに、かつての私は エゴの固まりのような人間でした。 大病する前は「うちの会社の社員は、自分一人が食べさせてやってるんだ」などとごう慢なことを考えていたし、上司の悪口もさんざん口にしていまし た。そういう自分を反省して、感謝の心で日々を過ごしなさいという、主治医の戒めだったんです。
七田 なるほど......。
志賀内 最初は主治医の話にも疑心暗鬼でしたが、時間が経つにつれて、いろいろなことに感謝できるようになりました。私をいじめた上司のことも、「ありがとう」と思えるようになった んです。
病気になったことで、初めて弱い立場の人の気持ちがわかるようになり、先ほどお話しした、私の人生を変える「白い杖の男性」とも出会うことができました。思いやりの気持ちの大切さ を知ることができて、本当に良かった と思っています。
人を思いやること、 人から好かれること。 これが幸せの条件
七田 志賀内さんには、「こころを育てる七田式えほんシリーズ」(ペガサスさんコース) の一冊、「ゆずりあうと・・・」という作品を書いていただきま した。
ペンくんとギンくんが、ふとしたことがきっかけでトラブルを乗り越える、心あたたまるストーリーですが、 あのお話の背景には、志賀内さんのそんなご経験があったのですね。
志賀内はい。恥ずかしながら私自身、特に子どものころは、自分のことしか考えていませんでした。 お盆に親せきが集まって、目の前にスイカが並べられたら、自分が真っ先に大きいものを選ぼうとしたりして........。
七田 子ども同士で争奪戦になりますよね(笑)。
志賀内 ええ(笑)。子ども時代はよく 見られる光景ですが、もし、ゆずりあいの心が育たないまま成長すると、大きなトラブルの種になってしまいます。 小さいころから、思いやりの心を持ち、相手の立場を考えてゆずりあう。そうすれば社会に出ても人から好かれて、人生をより楽しく生きられると思うんです。
七田 本当にそうですよね。
志賀内 大きな成功をおさめた経営者の方々とお話をするとき、不思議なことに、儲け話やお金の話をする人は、ほとんどいません。 どうしたら人に喜んでもらえるのか、そればかりをお話しされます。その結果、彼らは人から好かれて、社員も大勢ついてきて、どんどん会社も大きくなっているんです。
七田 なるほど。世間で成功者と呼ばれている方々には、思いやりの心が自 然に備わっているのでしょうね。
志賀内 はい。いい学校に入る、大企業に勤める、お金をたくさん稼ぐ......。 世間が「良い人生」と思うであろうこれらの条件を、すべてかなえても、人から愛されず、不幸な人は大勢います。 人が幸せになるための原点は、やは思いやりの心を持つこと。 その大切さが子どもたちに伝わればいいと思い、『ゆずりあうと・・・』を執筆しました。
七田 そのお考え、きっと読者のお子さまたちにも伝わると思います。
見返りを期待せず、 与え続けて、 親切の輪を広げよう
七田 志賀内さんのモットーは「ギブ・ アンド・ギブ」 だそうですね。
志賀内はい。普通なら「ギブ・アンド・ テイク」とか、「持ちつ持たれつ」などと言いますよね。 でも、「ギブ・アンド・テイク」や「持ちつ持たれつ」 の考えは、一歩間違うと、大きな罠におちいってしまうんです。
七田 どんな罠ですか?
志賀内 ギブ・アンド・テイクは、すなわち「○○してあげたから、してください」という考え方です。 もし、自分が○○をしたにもかかわらず相手が▲▲をしてくれなかったら、ギブ・ アンド・テイクが成り立ちません。「この前は私があなたの言うことを聞いてあげたんだから、今回はあなたが私の言うことを聞くべきだ」とか、「私がこんなにがんばっているのに、あな たはどうして何もしてくれないの?」 とか・・・。家族や学校、会社など、いたるところで起こりうるトラブルです。
七田 ああ......。 誰しも思い当たるシチュエーションですね。
志賀内 世の中のほとんどのトラブル は、見返りを期待して「○○してくれ ない」というところから、不満が発生すると思います。それなら、こちらが 与え続けて、求めなければいい。見返りを期待しない心を養うんです。 それ が「ギブ・アンド・ギブ」の精神です。でも、何も見返りを期待しないなんて不可能ですから、「ギブ・アンド・ギブ・アンド・ ギブ・アンド・テイク」くらいは求めてもいい。テイクを少しでも先送りできるようになれば十分だと思っています。
七田 なるほど。
志賀内 例えば車を運転していて、渋滞の列に割り込めなくて困っているとき、ある車がピ タッと止まって「入っていいよ」 と合図してくれた。その相手は見返りなんて求めていないだろうし、こちらも直接お返しすることはできないけれど、いつか誰かに、同じように小さな親切 でお返しすればいい。 これは、先ほど申し上げた「プチ紳士・プチ淑女を探せ!運動」の理念にも通じます。
七田 「ギブ」がどんどん広がっていって、いつか自分に「テイク」で返ってくる。すばらしい理念ですね。
志賀内 「ギブ・アンド・ギブ」の精神は、あらゆる時代や国々の言葉に息づいています。例えば、伝教大師最澄の言葉で、自分のことは後回しにして人に喜ぶことをするという「忘己利他」。 大ヒット映画のタイトルでもある、人から受けた親切を他の人へと渡す 「ペイ・フォワード」。 似た言葉がたくさんあります。
七田 言葉といえば、志賀内さんにお声がけいただいて、今年12月に私と志賀内さんとの合作で、日めくりカレンダー『「気づき」と「学び」の今日の言葉』 を発売することになりましたね。
志賀内はい。毎年、新作を発売して好評を博している日めくりカレンダーシリーズです。私と厚社長で思い思いの言葉を出し合って、とてもあたたかいカレンダーになったと自負しています。
七田 ご家族で毎日めくっていただい て、和んだり、何らかの気づきを得ていただけたら、とてもうれしいです。