エッセイ②「ヒッチハイカーが僕に残していったもの」

日本講演新聞の中部支局長でコラムニストの山本孝弘さんに、寄稿をお願いしました。
「コロナ禍でみんなの心がモヤモヤしています。なんとな~く、ホンワカするちょっといい話を書いていだけませんか?読者のみなさんの心が温かくなるようにと心を込めて」
すると、こんなお話が届きました。
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「ヒッチハイカーが僕に残していったもの」
山本孝弘

先日、初めてヒッチハイカーを僕の車に乗せました。彼は僕が帰る方向と同じ場所が書かれた段ボール紙を掲げて立っていました。話し相手がいれば僕も道のりが楽しくなると思い、なんの躊躇もなく車を停めました。
車から見たら若い子だと思ったのですが、近くで見るとそうでもなかったです。彼は私と3つしか歳が違わない50歳近い男性でした。乗せたのは15時くらいでした。彼が言うには朝8時くらいからずっと立っていたそうです。「本当にありがとうございます」と言って安堵の表情を浮かべていました。
彼は宮崎を出てからもう2年経っているとのこと。若い頃から一人旅を繰り返しているそうです。そんな彼が羨ましくもありました。僕も20代の頃はアジアの街を放浪した経験があります。でも今の僕にはいろんな意味でもうそんなことはできません。
ヒッチハイカーの世界もいろいろ様変わりしているそうです。女子ヒッチハイカーも今は急増。昔は「乗せてくれる車はトラック」と相場が決まっていたそうですが、今は9割以上が一般車だそうです。ほとんどの運送会社ではヒッチハイカーを乗せることを禁じているらしいです。事故を起こして怪我をさせたら責任が取れないというのが主だった理由なのだそうです。
「車を汚さないように僕もずいぶん気を使っています。夏場は自分が汗臭くないかも気にするんですよ」と小綺麗な出で立ちをした彼は語りました。
車を走らせながら、僕は彼から旅先で今まで経験した親切話や怪奇現象などを聞かせてもらいました。
次の日、妻と娘が僕の車で買い物に出かけました。帰ってくるなり娘が、
「お父さん、昨日車に女の人を乗せた?」
と聞いてきました。やましいことはしていないのでドキッとはしませんでしたが、何でそんなことを言うのだろうと不思議に思いました。娘が言うには車に香水の匂いが残っていたそうです。
ヒッチハイカーの彼はもうおっさんなのに気を使って香水まで使っていたようです。
事情を話すと今度は妻が怒りました。
「コロナの時期に変なおっさんを乗せるのは今後禁止!」
だそうです。おっさん差別だと思いました。僕は昨日の彼は「いい奴」という印象でしたが、彼は「変なおっさん」になってしまいました。
片や娘は暢気に少し前に流行った歌、「香水」を歌っていました。
僕もここでヒッチハイカーの彼に「香水」の替え歌を捧げたいと思います。
♪別に君を責めていないけど 横に乗せただけで怒られる 君のドルチェ&ガッバーナのその香水のせいだよ♪

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(志賀内より)
山本さんのご家族。いいなあ~。幸せな様子が伝わってきます。奥さんが怒ったのも、夫への愛情の証ですね。
そんな山本さんのエッセイは、この一冊で楽しめます。

「明日を笑顔に(晴れた日に木陰で読むエッセイ集)」(JDC出版)

(志賀内より)
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