九州の母親の代わりに (2008/11/9)

 友人のふるさとの母親が病気になった。付きっ切りで面倒をみたいが転勤族である。生活のため会社を辞めるわけにもいかず、週末の遠距離介護を余儀なくされている。

 さて、知多市の尾之内富子さん(54)からの便り。ご主人の母親が脳内出血で倒れた。幸い四週間の入院生活を経て回復したが、右手足に後遺症が出た。そのためリハビリテーション病院にそのまま転院することになった。

 移動には、病院から地元のタクシー会社の福祉タクシーを紹介してもらった。その運転手さんは、病室から病室までの間、母親の乗った車いすを押して運んで下さった。

 途中、運転手さんは自身のこんなことを話し始めた。九州の出身で、長い間愛知県で働いているという。ところが、二十年前に母親が病気になり、体が不自由になってしまった。最初のうちは父親が介護していたが、母親よりも先に亡くなった。その後は、弟夫婦がみていてくれる。自分も飛んで行きたいが仕事があってなかなか帰れない。

 そこでヘルパーの資格を取って福祉タクシーの仕事に携わることにした。自分の母親の代わりに、同じ事情で苦労している人の役に立ちたいと思ったのだそうだ。

 別れ際に車いすの母親の手を取り「歩けるようになってくださいね」と言ってくれた。まるで自分の母親に接するように。母親は涙ぐんでいた。尾之内さんはおっしゃる。「この運転手さんの思いが、どうか九州のお母さんと弟さん夫婦に届きますように」