「ごんぎつね」でもらい泣き (2011/10/2)

 安城市の深谷やす子さん(62)が以前、書店に勤めていたときの話。レジのカウンターに若い外国人の女性がやってきた。どこの国の人かわからないが絵本を広げて差し出し、英語で話しかけられた。何を言っているのかさっぱりわからない。アルバイトの学生さんに応援を求めたが通じない。

 しきりに絵本を指さしている。それは作・新美南吉、絵・いもとようこの「ごんぎつね」の最終ページだった。兵十の足元に火縄銃が落ちている。その手前には撃たれた「ごん」が横たわっている。まるで何か楽しい夢でも見ているかのような表情で。銃口から立ち上る煙。悲しく切ないシーンだ。深谷さんは、この女性にどのように伝えたらよいのか悩んだ。

 ふと、本棚の整理をしていた際に、英語訳の絵本があったことを思い出し、走って取りに行った。女性に手渡すと最初から読み直し始めた。そして…最後のページで目に涙をいっぱい浮かべて泣きだしてしまった。その様子を見て、深谷さんももらい泣きしてしまったという。

 その女性は、その後、日本語と英語訳版の両方を購入し、とても満足そうな笑顔で帰っていった。「よほど感動されたに違いありません。『ごんぎつね』の結末は“物悲しさ”“はかなさ”を表現しており、それは日本人特有の感情だと思っていました。ところが、外国の人、それも若い女性にも共感してもらえるんだと思ったら、うれしくて泣けてきてしまったのです。言葉は通じなくても一冊の絵本を通して、心が通い合った気がしました」と深谷さんは言う。