拍手で迎えられて (2011/12/18)

 権部美智子さん(77)はバスツアーが好きだ。年に20回くらい参加する。この夏、日帰りミステリーツアーに一人で参加した時の話。目的地は琵琶湖周辺だった。何度も訪ねたことのある場所だったが、楽しく過ごすことができた。

 最後に立ち寄った長浜の黒壁スクエアでバスに戻りハッとした。先ほど土産店で買ったそば茶と古代米の入った袋がないのだ。どこかに忘れてきたらしい。バスガイドさんが全員そろっているかどうかを確認しているところで、出発直前。権部さんは事情を話し、立ち寄った店やトイレへ土産物を探しに走った。

 見つからない。「最近、物忘れが多いなあ。こうして老いていくのか」と悲観してバスに戻った。すると、乗客の一人の35歳くらいの女性に「緑色のビニール袋じゃない? それならトイレの扉の内側のフックに掛けてあるのを見ましたよ」と教えられた。そのトイレに入った覚えがある。「私が一緒に行きましょう」と言われ、二人でもう一度トイレへ走った。

 「あった!」。個室の下の荷物台は確認したが、扉のフックを見逃していたのだ。うれしかった。でも、バスの中で待っていてくれる人たちに申し訳ない気持ちでいっぱい。「文句を言われても仕方がない」と思いつつ、不安な気持ちのまま戻った。ところが…。

 バスに乗り込むなり「よかったね」と割れんばかりの拍手が一斉に鳴り響いた。権部さんは言う。「胸が熱くなりました。皆さんイライラしていたに違いないのに。私も同じような場面に出合ったら、温かく迎えてあげようと思いました」