頭の中が真っ白に (2012/3/11)
名古屋市瑞穂区の岡島哲明さん(61)は、昨年の5月初め、のどの異常に気づいた。急にかすれて声が出なくなったのだ。その時、頭に浮かんだのが喉頭がんで亡くなった父親のことだった。「まさか」と思い、大学病院へ飛んで行った。すると、先生は「軽いポリープです。日帰りで手術できますが、予定が詰まっているので三週間後にまた来てください」。とりあえずほっとして帰宅した。
ところが、三週間後に行くと「これは普通の声帯ポリープとは違う可能性がある。すぐに入院して手術します」と言われて頭が真っ白になった。十秒くらいたってからようやくわれに返り、怖くなった。がんになった何人もの友人、知人の顔が浮かんだ。
全身麻酔をしての手術はうまくいった。しかし、退院後に細胞の検査結果を聞くまでの二週間が長く感じられた。その時、岡島さんは不安な中でもぼんやりと「何か」を得たような気がしたという。「悪性のがんの可能性がある」と言われたら「健康」を失うと考えるのが普通だろうが。
幸い、結果は良性。ほっとした瞬間、その「何か」がはっきりと見えた。「何か」とは、人の気持ちがより深く理解できるという特別な力。傲慢(ごうまん)だった友人が大病をした後で、人が変わったように笑顔のすてきな人になったことを思い出した。「少しだけ人の心の痛みがわかるようになった気がします。もっと深く人のことを考えられる人間にならなければと思いました。神様が少し大人になりなさいと『思いやりの心』をプレゼントしてくれたのだと思います」と岡島さんは言う