第4回恋文大賞入選作から(その1)
「ありがとう」の思いを伝えたい。
京都に柿本商事株式会社という会社があります。紙専門の商社です。寺町通りで「紙司柿本」という小売店も経営しています。偶然ですが、この店の大ファンで「かばんが重いよ~」と後悔するほど、ハガキや便箋を買い込んだことがあります。
柿本商事さんではCSRの一環として、2010年から「恋文大賞」というコンテストを始められ「心温まる言葉、心にぐっと響く言葉、そのような伝えたい思いを、紙にしたためご応募ください」と全国に呼び掛けられました。
http://koibumi-kakimoto.jp/about/index.html
その後、2015年に一般社団法人言の葉協会を設立し、名前を「言の葉大賞」と替え、年々、応募数が増加しています。
第4回恋文大賞(テーマは「「ありがとう」の思いを伝えたい。」)の入選作品から、紹介させていただきます。
後藤淳一(PHP編集長)優秀審査員賞入選作品
「孫娘へ」北海道札幌市 近藤正博(63歳)
その小さな体でよくぞ生まれてくれました。あなたのお母さんは子宮にできたポリープのせいで、早産のおそれがあり、また、出産の時も大量の出血があるかもしれないと言われ、二十四時間点滴をしながら、ずっと入院生活を送っていました。
初めて「おじいちゃん」となる私も、初めて母親となる娘も、あなたが生まれる瞬間をどんなに首を長くして待っていたことでしょう。
娘は「私が駄目でも赤ちゃんだけはどうか助けてあげて下さい」といつも言っていました。私は、母子ともどもどうか無事でありますようにと祈らずにはいられませんでした。
そうして陣痛から十八時間後、幸運にもあなたは自然な形で生まれてきたのです。
かつて娘が生まれる時も、紫斑病の妻から、まともに子供が生まれるかどうか危ぶまれました。しかし何とか無事に出産できたのです。その娘が今度は初めて女の子を出産したのです。そうして、あなたが一人前の女性になった時、再び子供を生むようになるのかもしれません。命というものは、こうして代々受け継がれていくのですね。
二千五百グラムという小さな体であなたは精一杯生きています。そんなあなたのつぶらな瞳を見ていると何かしてあげずにはいられない気持ちになります。無償の愛とでも呼べばよいのでしょうか。あなたもそうした愛を一身に受けてすくすくと育って下さい。
そうしてあなたが一人前になった時、今度はその愛を他の人にも返してあげて下さい。あなたは、肉親だけでなく、お医者さん、看護師さん、いや、社会を成り立たせている多くの人の協力によってこの世に生を受けたのです。社会とはそういうものです。あなたもいずれ、そうした人間社会の責任を果たして下さい。
初めてあなたの「おじいちゃん」となった者から、ささやかなメッセージを送りました。
「生まれてくれて、本当にありがとう」
入選作品
「あなたへ」山口県山口市 嶋村経子(50歳)
結婚して、十七年目。そしてあれから五年目になりますね。
そう、二〇〇八年の十月、あなたからすばらしいプレゼントを贈られました。
その日の朝、病院のベットの上で目覚めた私の目に、一番最初にとびこんできたのは、いつもと変わらない笑顔と声で、「歯みがき粉貸して」というあなたの顔でした。
「朝は絶食のはずなのに歯をみがくの?」という私の問に、「いいじゃん」と無邪気に笑って自分の病室へ戻って行きましたね。大手術の前なのに緊張している様子などひとつも感じられませんでした。
私の中で、その年の二月、主治医から言われた「血液型の違う夫婦間の腎臓移植、大変きびしいですね」という声が、脳裏をよぎって行きました。
それから二人の戦いが始まりましたよね。何度もくりかえされる採血や苦痛が伴う検査。でも二人の目的は、ただひとつ。
生体腎移植の成功。それも血液型の違う……。
私が薬の副作用でくじけそうになり、「もう手術はやめたい」と弱音を吐いた時も、逆に叱咤激励してくれて、「元気になって、娘と三人で、海外旅行へ行こう」と言ってくれたその笑顔に、どんなに勇気づけられたことか。そんなあなたの思いに答えるため、それからは頑張りました。
私は自分の事だから頑張るのは当然だけど、それ以上にあなたが奮闘してくれる姿に、私は、どれほど励まされたことか。本当に感謝しています。
おかげ様で、手術は無事成功し、今年で五年目を迎えますね。
あなたの腎臓が、私の中で元気に活躍しています。
三人で、海外旅行へ行くという夢も叶いました。
あなたが贈ってくれた、決してお金では買えない、最高のプレゼントを一生大切にします。
命をありがとうございました。