第10回言の葉大賞入選作から(その5)

 一般社団法人「言の葉協会」では、全国の小・中学校。高等学校から毎年のテーマに合わせた大切な人への思いや強く感じた気持ちを自分の言葉で綴る作品を募集し、その優秀作品を「言の葉大賞」として顕彰しています。
 第10回言の葉大賞のテーマは「『失敗から』学んだこと」。入選作品から、一つ紹介させていただきます。

「老人とぼく」慶應義塾普通部 2年 船木 悠生

 ぼくは学校へ行くために毎日バスに乗る。ぼくが乗るバス停は始発駅から二駅目だ。そのため車内はまだ空席が目立つ。

 ぼくは、小さい時から乗り物が好きで、その中でも好きだったのがバスであった。そのため、バスに乗る時は、必ず運転席が見える一番前の高い席に座っていた。

 そんなある日のことだ。

 車内が、だんだんと混んできていた。すると、一人のおばあさんが、乗ってきた。そのおばあさんは、杖をつきながら乗ってきて、とても大変そうだった。そのためぼくが
「この席、座りますか?」
と聞くと、おばあさんは、
「いいです。私、その席は、高くて座れないから。ありがとう」
と言われた。

 ぼくは、そのおばあさんが、かわいそうでたまらなかった。そんなことを思っている間に、駅に着いてしまった。

 翌日、ぼくは、バスの中で、あのおばあさんのことを思い出し、いつもの席ではなく、後ろの方の席に座ることにした。そして、案の定、杖をついたおばあさんが乗ってきた。そして、ぼくが、
「座りますか?」
と聞くと、
「ありがとう」
と言って座っていただいた。

 これが、ぼくの日課となり、おばあさんとも仲良くなった。最初は、おばあさんに声をかけるのも、ドキドキした。しかし、今となっては、最初の勇気のおかげで、今では、おばあさんとお話する仲になっている。言葉がけの力は、ぼくも気持ちがいいし、おばあさんもきっと嬉しかったにちがいないと思うと、人の気持ちを動かす、すごい力を持っている。

他の「言の葉大賞」の受賞作品や、次回「言の葉大賞」の応募要項は、こちらをご覧ください。
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