第10回言の葉大賞入選作から(その4)

 一般社団法人「言の葉協会」では、全国の小・中学校。高等学校から毎年のテーマに合わせた大切な人への思いや強く感じた気持ちを自分の言葉で綴る作品を募集し、その優秀作品を「言の葉大賞」として顕彰しています。
 第10回言の葉大賞のテーマは「『失敗から』学んだこと」。入選作品から、一つ紹介させていただきます。

「命の重み」京都市立御所南小学校 6年 糸永 有圭子

 二年前の夏、私は熊本地震への復興支援祭りに行きました。そこで、お祭りの最後に金魚すくいを楽しみました。もう八時を過ぎていたので、私が一回終えたところで閉め始めたお店の人から、「今日が最終日だし、復興を願って好きなだけ持って帰っていいよ。」と声をかけられ、金魚を二十二匹ももらいました。その場で大喜びした私は、ひしめき合って泳ぐ金魚の入ったいくつもの袋を握りしめ、意気揚揚でした。もちろん金魚をそれだけすくったこともなければ、もらったこともなかったからです。

 しかし、帰宅した私は一転、まだ汗をかいたままなのに、信じられない夏の寒さを感じました。育てるための水槽さえ用意してありませんでした。金魚にとって致命的となる水道水のカルキを抜くだけでも一晩では間に合いません。仕方なく、袋に入れたままにしておきました。もうその時の私は、嬉しかった気持ちなど一切なく、ただ、怖くて不安な気持ちが心の中をぐるぐる回っていました。

 次の朝、袋の中で一匹がなくなっていました。私にとって、たった一晩の命だった金魚のお墓を作りました。その日なくなったのは幸い一匹でしたが、二週間後には、七匹がいなくなりました。これだけ沢山の命を預かった自分が失敗だったと痛感しました。

 今、生きているのは一匹です。生きていてくれてありがとうと思います。あの日私は、命のはかなさを学びました。

 命は、はかないものです。それは、金魚でも人でも同じだと思います。だからこそ大切なのです。あの日からよく考えるようになりました。限りある命の重みに胸が苦しくなります。金魚すくいもしていません。命に責任を負いたくないわけではなく、忘れたくないからです。

 改めて、優雅に泳ぐ一匹の金魚、その心に染みるはかなさの中に、大きな命の輝きを見ます。

他の「言の葉大賞」の受賞作品や、次回「言の葉大賞」の応募要項は、こちらをご覧ください。
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入選作品集「「言葉の力」を感じるとき」Ⅰ・Ⅱや「言の葉CONCEPT BOOK」がお求めになれます。
  
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