第7回言の葉大賞入選作から(その8)

 「今、ここに教育の現場が在る」
                      
 一般社団法人「言の葉協会」では、全国の小・中学校・高等学校から毎年のテーマに合わせた大切な人への思いや強く感じた気持ちを自分の言葉で綴る作品を募集し、その優秀作品を「言の葉大賞」として顕彰しています。
 第7回言の葉大賞の入選作品から、志賀内が特に心に響いた作品を紹介させていただきます。

「母がくれた『大丈夫』」私立文化学園大学杉並高等学校 カーン さな

 「大丈夫」小さい頃から何度も母が私にかけてくれた言葉だ。転んでけがをした時。病気で私が入院した時。不安な時も悲しい時もいつでも私を助けてくれた魔法のような一言で守ってくれた。

 そんな言葉をかけてくれた母が二ヵ月前にガンで入院した。口のガンでまだ初期段階で良かったものの手術をしなければならない状態だった。手術の日、学校帰りにお見舞いに行った。あんなに元気だった母がたくさんの管につながれているのを見るのはとても辛くて、このまま死んでしまうかもしれないという不安な気持ちで五分も病室にいることができなかった。

 そんな母の姿を見るのがこわくて、毎日お見舞いに行くと言っていた私も行くのが嫌になった。行く決心がついたのは手術の二日後だった。そこにあったのは元気な母の姿だった。手術をしたのが口だったため、話すことができず筆談で母と会話をした。まずはじめに私に聞いた言葉が「大丈夫?」だった。

 二日間、姿を見せなかった私の心配をしてくれていた。母の方が入院中で大変なのに私の心配をしてくれて申し訳なくなるのと同時に温かい気持ちになった。

 大丈夫と言ってくれる母に「大丈夫?」と聞くと大丈夫と返ってくる。その大丈夫が本当なのかは私には分からない。もしかしたら本当は母は辛いのかもしれない。

 私は来年17歳だ。そんな私も2歳の時ガンになり、手術しなければ死んでしまっていた。その時のことはほとんど覚えていないが、子供がたくさんいる病室でお母さんが私の手を握って「大丈夫」と言ってくれたのを覚えている。

 本当だったら二年しか生きられなかった私をここまで見守り育ててきてくれた母。その母の温かい「大丈夫」をこんどは母そして自分の子供に言ってあげられたらなと思う。そして母が本当に大丈夫になるように支えてあげたいと思う。

他の「言の葉大賞」の受賞作品や、次回「言の葉大賞」の応募要項は、こちらをご覧ください。
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