いいことをすると自分を好きになる

ヒダカズのココロの授業

比田井和孝
「いいことをすると自分を好きになる」

先日、ご近所の方から電話がかかってきました。「おたくの学校にS君、Y君…という学生さんがいますよね?」 …私、ドキッとしました!「…もももももしや、クレームか? ウチの学生、何やらかしたんだ?」
ドキドキしながら聴いてみると、こんな話でした。
先日、ある小学校の近くの道端で、子ども達が集まって「困ったね、どうしよう」と騒いでいました。たまたまそこに通りかかったウエジョビの斎藤君、田中君、山岸君、吉澤君の四名。「どうしたの?」と近寄ってみると、子ども達の真ん中にはおじいさんが座り込んでいたのです。どうやらおじいさんは認知症で、自分がどこに住んでいるのかも、どう帰ったらいいのかもわからないような様子。
そこで学生たちは、何か手がかりはないかと、おじいさんの持ち物を見せてもらいました。すると、市内の病院の診察券が出てきたのです。唯一の手がかりです。早速、その病院に行ってみようということになりました。ところが、おじいさんはあちこち歩き回って疲れ果てていて、もう、自分で歩く力も残っていません。子どもたちも心配そうにおじいさんの姿を見つめています。
学生は言いました。「おじいさん、僕たちがおぶっていきますよ。さぁ、こちらにどうぞ!」…おじいさんの目の前には学生の背中が。そこから病院までは約一キロありましたが、学生たちは交代で背負いながら、なんとか病院に到着することができました。そして、病院からご自宅に連絡をしてもらって迎えに来てもらうことができたのでした。…ということで、このお電話は、ご家族からのお礼のお話だったのです。
この四人は、公務員科(公務員試験合格を目指すコース)、警察・消防コースの学生です。もちろんまだ夢がかなったわけではありませんが、心はもう警察官・消防士です。「地域のお役にたちたい!」という志をもってウエジョビで頑張っている彼らですから、そんな状況をみて、放っておけなかったのでしょう。私は彼らに「よくやった! ありがとう!」と伝えました。
ウエジョビではこんな風に教えています。
「公務員になりないのであれば、公務員としてふさわしい人間になれなければ、面接試験でどんなにいいことを言っても合格なんてできないんだよ。たとえ、面接でその時だけうまいことを言って合格できたとしても、決して『いい仕事ができる公務員』になんてなれないんだ。だからまず、公務員としてふさわしい人間になること。普段の生活から…普段のあり方から、ふさわしい人間になることが大事なんだよ。『公務員になること』が大事なんじゃない。『どんな公務員になるか』 が大事なんだよ」…と。
もちろん、公務員科以外の学生たちも同じです。どんな社会人になるのか、どんなふるまいをすれば、社会から必要とされ信頼される人間になれるのか…そんなことを学生たちと一緒に考える毎日を送っているのです。彼らはそれを実践してくれたんです。嬉しかったですね。

さらに、その電話の様子を聴いていた隣の瀧澤先生が、ニコニコしながら、「その四人だったんですね!」と、嬉しそうにこんなことを話してくれました。
実はその日、瀧澤先生はアパート見学の案内のために、来年度の新入生と親御さんを、希望するアパートに案内していました(ウエジョビでは毎年一〇〇名前後がアパート暮らしです)。あるアパートに見学に行った時のこと…そのアパートに空き部屋があれば部屋の中を見ていただくことはできるのですが、そこはすべての部屋が埋まっていたので見ていただくことができません。
そこにたまたまアパートから出てきたのが、例の四人です。瀧澤先生はダメもとで「悪いんだけど、誰かの部屋の中、ちょっと見せてくれないかなぁ?」って言ってみたんですって。そしたら、「おまえの部屋を見せろよ!」「いや、それはお前の部屋だろ!」と言いだして、結局、ジャンケンで負けた山岸君の部屋を見せてくれることになったんですね。部屋の中まで見ることができた新入生親子はその部屋が気に入って、その場でアパートを決めました。
突然にもかかわらず、部屋の中を見せてくれただけでもありがたいことなのですが、さらに、新入生親子が乗った車が走り出すと、その四人が横一列に並んで、手を振って見送ってくれたんですって。その様子を見ていたお母さんは、「男の子たち、手を振ってくれているわ!」と驚くと同時に、とても喜んでいたそうです。
瀧澤先生、言ってました。四人が部屋から出てきた時、「また四人集まって、なんか悪いことしてたんじゃないの~(笑)」と冗談で声をかけたら、「何言ってるんですか~、 僕ら今、いいことしてきたんですから!」と、嬉しそうに言っていたとか。瀧澤先生、「そういうことだったんですね!」と納得していました。いいことをした後って気分がいいんですよね。自分が好きになりますよね。
困っている人を見かけて何とかしてあげたいと思い、実際に行動した学生たち、本当に素晴らしいですね。まさに「プチ紳士」です! こんなプチ紳士、プチ淑女達がこれからもたくさん巣立っていくように、日々の学生生活の中で「人として大切なこと」を伝え続けていきたいと、そんな風に改めて思った出来事でした。