私が体験した「ディズニーリゾートのおもてなしの心」

私が一番受けたい「ココロの授業」

比田井美恵

私が体験した「ディズニーリゾートのおもてなしの心」

あれは今から六年前…息子が二歳七ヶ月の頃。家族三人で東京ディズニーリゾートに行きました。まだ息子も小さくて、身長九〇センチほど。もちろんジェットコースターに乗れるわけではありませんが、夢の国でかなりはしゃいでいる息子を見るのは至福の時でした。
三人で歩いていると、突然、息子が「あれ!」と指をさして走り出しました。乗りたいものを見つけたようです。二人乗りで、グルグルとただまわるだけのものですが、二歳の子どもにとっては十分に刺激的な「スカットルのスクーター」でした。三人で長い行列に並び、やっと順番が来ました。息子も大はしゃぎで乗り込みます。安全バーを下げ、息子もニコニコワクワクしています。しばらくすると、スクーターがゆっくりゆっくりと動きだしました。

ところが、動き出したスクーターにビックリして、息子が突然立ち上がってしまったのです! もちろん、スクーターは緊急停止!
「あぁ~! ウチの息子のせいで、スクーターを止めてしまった! みんなに迷惑をかけてしまった…。こんなに混んでいるのに…」…と、申し訳なく思っていると、アナウンスが流れました。
「大変失礼いたしました。みなさんの安全バーを確認させていただきます」
キャスト(ディズニーランドでは、スタッフのことを「キャスト」と呼びます)の方が二~三人出て来ると、息子が乗っているスクーターとは反対側のスクーターから順番にひとつずつ、丁寧に安全バーを確認していきました。笑顔で安全バーを触り、「大丈夫ですね」と言っています。
私はホッとしました。「あぁ、息子のせいでスクーターを止めてしまったと思ったけど、そうじゃなかったんだ。迷惑かけずにすんで良かった~」

…ところが…安全バーの確認でまわってきたキャストの方は、ニコニコしながら息子の顔をのぞき込み、こう言ったのです。…それも小さな小さな声で。
「大丈夫かな? 今度はじっとしていられるかな?」
私はすべてを悟りました。…そうなんです。やっぱり、息子が立ち上がったせいで、緊急停止をしていたのです。でも、息子が原因だったということを、他のお客様に気付かせないようにしてくださったのです。感動しました。

他の遊園地だったら、緊急停止の後、ツカツカと息子の所に来て「立ち上がらないで下さい! おとうさん、しっかり抱いていてください!」と注意されたっておかしくない出来事です。
さすがに、そこまではしないとしても、もしも、キャストの方が一斉に息子の所に駆け付けていたら…息子のせいで乗り物が止まったということが他のお客様たちにわかってしまいます。また、息子の所だけ安全バーを確認したとしたら…やっぱり、他のお客様たちにわかってしまいます。

そうなっていたら…私たちはどんな気持ちになったことでしょうか? 「息子のせいで迷惑をかけた」と、かなり肩身の狭い思いをしたことでしょう。乗り物を降りた後は、逃げるようにして、この場所を去っていたかもしれません。写真を撮る気にもならなかったことでしょう。後味の悪い思い出になってしまったに違いありません。もしかしたら次にディズニーリゾートに来た時にも、この乗り物を見たら「この前来た時は、息子がみんなに迷惑をかけたんだっけ…」…と、嫌な気持ちになってしまったかもしれません…。

だから、キャストのみなさんは、お客様に心からディズニーリゾートを楽しんでもらうために、お客様の夢を壊さないために…お客様に、楽しい思い出だけを持って帰ってもらうために…あえて、遠い場所から…そして、すべてのスクーターの安全バーの確認をしたのです。
これなら、誰が原因だったのか、何が原因だったのか、周りの人にはまったくわかりません。深いですね。さすがディズニーです。心から感動しました。
これだから、ディズニーが大人気なんですね。だから、また行きたくなってしまうんですね。

おかげで、この乗り物は私たちにとって、逆に、素敵な思い出の乗り物になりました。
私は今までもディズニーのファンでしたが、この一件で、さらに輪をかけて大好きになりました。本に書いてあることではなく、私たちが体験した、ディズニーの本当のおもてなしの心。…なんだか得をした気分です。またディズニーに行こうと思います!