木下晴弘「感動が人を動かす」25「大阪のプチ淑女は敵に回すと怖い」

(お願い)諸般の事情により、SNS等への転載は、一部抜粋の転用も含めてご遠慮ください。当サイト内のみでお楽しみいただけたら幸いです。

シリーズ「感動が人を動かす」25
「大阪のプチ淑女は敵に回すと怖い」
「涙の数だけ大きくなれる!」著者  木下 晴弘

私のオフィスは、新大阪駅から市営地下鉄で一駅南へいった西中島南方という駅の近くにある。新大阪駅から電車なら2分。徒歩なら10分ちょっとなので、天気のいい日には歩いて行き来する人も多い。そこからさらに二駅南にいくと梅田である。
梅田は言わずと知れた大阪の中心地である。街自体が仕事、遊び、生活全般とあらゆるシーンに対応しており、必要なものは何でもそろうし、大手金融機関の店舗もひしめき合っている。
そのせいか梅田にほど近い新大阪駅は「新幹線の乗り換え駅」という位置づけも重なり、多くの有名企業のオフィスがあるにも関わらず、特に金融機関に関しては店舗が「点在」し、お世辞にもロケーションがいいとは言い難い。

そして、その「点在」の恩恵を受けているのが西中島南方なのである。ビジネスに関していうなら、西中島南方は新大阪と一体として受け止められているようで、ビル名に「新大阪」と名の付く建物が目白押しだ。かくいう弊社が入るビルも「新大阪6号館」とありがたい名前が付けられていて、住所だけを見ると実力をはるかに上回る「箔」がついている(気がする)。
そんなこんなで、弊社の近くにはメガバンクが3店舗あり、月末ともなればATMには「長蛇」の列ができる。

多くの会社が決算を迎える3月末のある日、私はその「長蛇」のしっぽあたりにいた。ATMは8台ほどあるが、一人の滞在時間が長いためになかなか進まない。皆のイライラが聞こえてくるようだった。15分程待ってようやく4番目の位置にやってきた。一番前は赤ちゃんを前抱っこしたお母さん。その次が若いビジネスマン。その次が大阪のおばちゃん。そして私だ。私のあとには20人ほど並んでいただろうか。左端のATMが空いた。お母さんはそそくさとそのマシンに近づいたのだが、何やら戸惑っている。どうやら前の人がキャッシュカードを取り忘れていたようだ。そのお母さんは親切にも、少し離れたところにいたフロア担当の行員さんに声をかけて状況を説明している。すると、その行員さんはそのATMを取り扱い中止にして、裏に引っ込んでしまったのだ。忘れ物をした人を早く特定したいという焦りもあったのだろう。お母さんはしばらく待っていたが復旧の兆しは見えない。数分後、真ん中あたりのATMが空き、2番目の若いビジネスマンが急ぎ足でそこに向かっていった。それでもお母さんの前のマシンは動かない。

しばらくたった後、気の優しいお母さんなのだろう、すごすごと列の最後尾に並びなおしたのだ。あまりにも気の毒だ。列の先頭に入りなおしても誰からも不満は出ないであろうに、彼女はもう一度並びなおすことを選んだのだ。
数分後、取扱い中止になっている隣のマシンが空いた。そのとき大声でそのお母さんを呼んだのが今先頭にいる大阪のおばちゃんだった。「正義の味方登場」である。
「ちょっと~!そこのお母さん!そうそうあなたよ!あ・な・た。一つ空いたわよ!早く戻ってきなさいよ!」
「え?いいんですか?」
「あったりまえじゃないのよ!この銀行の対応がおかしいのよ!私後で文句言ってやろうかしら。あなたはずっと並んできたんだから当然でしょ。さ、早く済ましちゃいなさいよ。お~よちよち、かわいい子だねぇ~いい?正直者が馬鹿を見る世の中は絶対ダメ!言いたいことがあったら大きい声で怒鳴ってやるのよ。強くなきゃ生きていけないよっ。がはははははっ!」
いやはや、豪快。でもスッキリ。口は悪いが、行動に愛が溢れていて嫌味がない。これも立派なプチ淑女・・・う~ん淑女はちょっとキツイか・・・
そのおばちゃん、自分の用事が済むとカウンターに向かい、きっちりと教育的指導をおこなっていたようだ。
大阪のプチ淑女は敵に回すと怖いのである。