木下晴弘「感動が人を動かす」9

「感動が人を動かす」9
「幸せを運ぶ赤鬼」
「涙の数だけ大きくなれる!」著者  木下 晴弘

広島県福山市に本部を構える、めちゃめちゃいけてるスーパーマーケットがあります。
その名を「エブリイ」さんといいます。
エブリイさんにはある基本思想が根付いています。
①顧客満足 ②従業員満足 ③売り上げ ④社会貢献の4項目(彼らはこれを「4つの窓」と呼んでいます)は、どのひとつを追求しようとしても、すべてが密接につながり、相関関係を持っており、ある項目だけを追いかけるということはできないとする考え方です。
この会社では品質や接客はもちろん、社内の行事に至るまで、すべてがこの基本思想の床の上で行われており、このご時勢に10年連続で売り上げを伸ばし続けているのです。
今回ご紹介したいのは、この熱き会社を支える熱きスタッフの育成に、全身全霊で取り組むこれまた熱き人「永谷 真次」さんです。
永谷さんは驚異の勉強家で「素晴らしい取り組みをしている組織がある」と聞けば、どんなに遠くても見学に出向き、しかも学んだことをすぐに実行に移すという行動力を持っておられます。そしてその行動力はもちろんお子さんの教育にも反映されているのです。

ある年の1月も終わりに近づいた頃、スーパーでは「枡に入った豆」や「赤い鬼の面」など節分にあわせた商品が並び、売り場は賑やかに演出されていました。それを見た永谷さんの3歳と5歳になる息子さん二人は「パパ、今度の節分に豆まきしようよ!」とせがみました。
「よし!じゃあやるか!」とすぐに行動に移した永谷さん。その年の節分はご家族でわいわい盛り上がったそうです。ところがあまりに楽しかったのか、子どもたちは「豆まきがこんなに楽しいのなら僕たちだけではなく、誰か周りの人を喜ばせてあげよう」なんて事を言い出したのです。
こんな素敵な考え、実行に移さない手はありません。
「よし!誰を喜ばせようか?」とお子さんと共に「豆まき会議」が始まりました。

永谷さんのお住まいは、神石高原町というところで、福山駅から北方向にバスで約90分かかります。山間の町は自然に溢れ、何度も深呼吸を繰り返したくなるほど、空気が美味しいのです。そして過疎化の影響か、お一人で暮らしておられるおじいちゃんやおばあちゃんが大勢いらっしゃいます。「豆まき会議」では、このお年寄りの皆さんのおうちを回って、一緒に豆まきをしてもらおうということになったのです。

行動派の永谷さんはもちろんやるなら徹底的にやるタイプ。自分は鬼の役割です。リアルな鬼の方が良いと考えた彼は、全身赤タイツ姿。しかもおもちゃ屋さんで鬼のコスチュームまで購入する徹底ぶり。どこから見ても赤鬼が誕生しました。

しかし、突然押しかけてあまりに驚かせてしまうことは避けねばなりません。そこで、前もって電話をかけたそうです。

「突然すみません。実はうちの息子たちが、是非おじいちゃん(おばあちゃん)と豆まきがしたいって言うのです。これからそちらに豆をもってお伺いしてもよろしいですか?」

そして、そのお宅に到着すると、まずお子さんがおうちに入って「おじいちゃん(おばあちゃん)大変じゃ、鬼が出た!豆まいて追い払おう!」とお年寄りの手を引いて玄関までいざないます。玄関には赤鬼が!おじいちゃんやおばあちゃんは初めびっくりするそうですが、子どもたちが豆をまき始めると、やがて一緒に元気よく「鬼は~外」と参加してくれるのだそうです。

それはそれは楽しそうに。昔を思い出すかのように。

「参った!助けてくれ~」と家から出て行く赤鬼をみて「やったよ!おばあちゃん!鬼を追い払ったよ!」と子どもたちがおばあちゃんの周りを飛び跳ねます。「うん、うん。よかったな。よかったな。」満面の笑みで答えるおばあちゃん。

ところが・・・それまで笑っていたはずのおばあちゃんがやがて泣き始めたのです。

「ありがとな。ありがとな。ようきてくれた・・・ありがとな・・・」

お礼を言いに戻ってきた永谷さんの前で、おじいちゃんやおばあちゃんは泣きながら、子どもたちのポケットにお菓子やお小遣いをねじ込んでこられるそうです。

「いや、そんなつもりでやっているのではないので」と永谷さんが言うと、お年寄りの皆さんは皆こうおっしゃるのです。

「うれしいんじゃ・・・来てくれた事が、うれしいんじゃ・・・」

もちろん後日、永谷さんは、うなぎや果物を持って再びお年寄りのおうちを訪れるそうです。

もし皆さんが神石高原町を訪れる事があれば、畑で働いていられるお年寄りに尋ねてみてはいかがでしょうか。毎年節分になると現れる、幸せを運ぶ赤鬼のことを。